改正相続法の施行日が決定・その②。遺産分割に関する見直し

ポイント:配偶者への自宅の贈与・遺贈は2019年7月1日から特別受益による持戻しの対象外に。また、同日からは遺産分割前でも相続人単独で預貯金の払戻しを受けられる。


こんにちは。税理士の関田です。

相続法(民法)の重要改正項目、第2回は遺産分割に関する見直しについてです。

ここでは「配偶者へ自宅の生前贈与・遺贈の持戻し免除」と「預貯金の仮払制度の創設」を取り上げます。

配偶者への自宅の生前贈与・遺贈の持戻し免除

特別受益の持戻しとは

特別受益とは、ある特定の相続人が被相続人から特別に受けた利益のことをいい、主に生前贈与遺贈がこれに当たります。

相続が発生した際には被相続人の遺産を法定相続分に応じて各相続人に分割するのが原則ですが、もしこの特別受益を考慮せず単純に分割してしまうと、特別受益を受けていた相続人と受けていない相続人との間に不公平が生じてしまいます。

そこで、特別受益の対象となる財産を遺産に加算(持戻し)したうえで法定相続分に応じた各相続人の取り分を計算し、特別受益を受けた相続人については計算された取り分から特別受益分を差し引いた分を取得するよう調整するのです。

これを「特別受益の持戻し」といいます。

配偶者に対する自宅の贈与・遺贈は持戻し免除に

これまでは、配偶者に対して自宅(土地・建物)を生前贈与したり、あるいは遺言書により遺贈したりした場合でも、遺産分割上は原則として「特別受益の持戻し」が適用されていました。

その結果、自宅以外に配偶者が相続できる遺産(特に金融資産)が減ってしまい、相続後の配偶者の生活に支障をきたすという問題点があったわけです。

そこで、改正相続法では、婚姻期間が20年以上の夫婦で一方の配偶者(被相続人)が他方の配偶者に自宅を贈与又は遺贈した場合には、被相続人に持戻し免除の意思表示があったものと推定し、自宅の贈与又は遺贈を特別受益として加算せずに遺産分割を行うこととされました。

<具体例>

  • 被相続人:夫
  • 相続人:妻、長男、長女の3名
  • 被相続人の遺産:2,500万円
  • 夫から妻への自宅贈与による特別受益:1,500万円
  • 夫妻の婚姻期間:40年

(1)改正前の取扱い

① 特別受益の持戻し

2,500万円 + 1,500万円(特別受益) = 4,000万円

② 法定相続分による遺産分割

妻:4,000万円 × 1/2 - 1,500万円(特別受益)= 500万円

長男:4,000万円 × 1/4 = 1,000万円

長女:4,000万円 × 1/4 = 1,000万円

(2)改正後の取扱い

① 特別受益の持戻し

なし

② 法定相続分による遺産分割

妻:2,500万円 × 1/2 = 1,250万円

長男:2,500万円 × 1/4 = 625万円

長女:2,500万円 × 1/4 = 625万円

施行日

この改正の施行日は2019年(平成31年)7月1日です。

すなわち、2019年7月1日以降の贈与又は遺贈について適用されます。

預貯金の仮払制度の創設

相続が発生すると預金口座は凍結される

金融機関は通常、口座名義人に相続が発生すると直ちにその口座を凍結します。

一旦口座が凍結されてしまうと、その口座を解約あるいは名義変更してお金を引き出すには相続人全員の実印を押した遺産分割協議書や金融機関所定の書類、戸籍謄本、印鑑証明書などを取り揃えなければなりません。

つまり、これまでは遺産分割が終わるまで被相続人の預貯金を一切引き出すことができなかったのです。

その結果、手持ちの預貯金が少ない場合には葬儀費用の支払いや相続後の相続人の生活費に困るという問題が生じていました。

遺産分割前でも預貯金を引き出すことが可能に

そこで、一定額までは他の共同相続人の同意がなくても単独で預貯金の払い戻しを受けられるよう、2つの制度が設けられました。

①家庭裁判所で手続きする方法

まず1つ目は、家庭裁判所の判断による預貯金の仮払いです。

家庭裁判所は、

  • 遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、
  • 被相続人の債務の弁済や相続人の生活費に必要と認めるときは、
  • 他の共同相続人の利益を害さない限り、
  • 預貯金の全部又は一部を仮に取得させることができる

ものとされました。

払戻し額の上限は定められていませんので、家庭裁判所が必要と認めればある程度高額な払戻しを受けることも可能です。

②金融機関で直接手続きする方法

2つ目は、相続人が直接金融機関へ請求することによる預貯金の仮払いです。

実務上は、少額の引出しであればこちらの制度の方が使いやすいでしょう。

払戻しできるのは以下の金額までです。

払戻可能額 = 相続開始時の預貯金債権の額 × 1/3 × 払戻を受ける相続人の法定相続分

ただし、払戻可能額までなら自由に引き出せるわけではありません。

払戻し上限額は「金融機関ごとに150万円まで」とされていますのでご注意ください。

施行日

この改正の施行日は2019年(平成31年)7月1日です。

なお、相続開始日が施行日よりも前であったとしても施行日以降に仮払いを請求することは可能です。


※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。

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