教育資金の一括贈与制度スタートから10年。改正の歴史を振り返る

ポイント:一括贈与(信託)を行ったタイミングによって税務上の取扱いが異なるため、改正後だけでなく改正前の内容も押さえておく必要あり。


こんにちは。税理士の関田です。

教育資金一括贈与の非課税制度がスタートしてから10年が経過しました。

創設当初から「富裕層の節税に使われるだけ」と言われてはいましたが、実際その通りとなり、何度も節税封じのための税制改正が行われながらも今日まで続いている状況です。

継ぎ接ぎだらけで分かりにくくなった制度内容をいま一度整理すべく、改正の変遷を振り返ってみたいと思います。

教育資金一括贈与の非課税制度の概要

教育資金一括贈与とは、直系尊属である「父母や祖父母」などから30歳未満の「子や孫」などに対し教育資金を一括贈与した場合、最大1,500万円(うち塾や習い事など学校以外への支払いは最大500万円)まで贈与税が非課税となる特例制度です。

具体的な手続きとしては、信託銀行などの取扱金融機関に設けた「教育資金管理口座」に贈与者が金銭を信託し、受贈者が実際に支払った教育費の領収書などを提出したうえで金銭を払い出す形となります。

あくまで時限措置として平成25年(2013年)4月1日から始まり、いまのところ令和8年(2026年)3月31日までの延長が決定していますが、その間に以下のような改正が行われました。

平成31年度改正

受贈者の所得制限の創設

贈与を受ける子や孫などについて所得制限が設けられ、贈与日の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合には適用対象外となりました。

【適用時期】平成31年(2019年)4月1日以降に行われた贈与(信託)

23歳以上の学校以外への支払を除外

23歳以上の受贈者が行った学校等以外への支払い(趣味の習い事など)については教育資金の範囲から除外されました。

ただし、教育訓練給付金の支給対象となっている教育訓練の受講費用は除外されません。

【適用時期】令和元年(2019年)7月1日以降に支払われた教育資金

死亡前3年以内の贈与に係る残額は相続財産に加算

贈与者の死亡前3年以内に行われた贈与について非課税の適用を受けた場合、死亡日における管理残額(まだ使い切っていない金額)を相続税の課税対象とすることになりました。

ただし、死亡日において受贈者が次のいずれかに該当する場合は課税対象外となります。

  1. 23歳未満の場合
  2. 学校等に在学している場合
  3. 教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合

【適用時期】平成31年(2019年)4月1日以降に行われた贈与(信託)

最長40歳までの非課税期間延長

本来であれば信託期間が終了となる30歳に達した日において受贈者が次のいずれかに該当する場合には、最長で40歳に達する日まで信託期間が延長されることになりました。

  1. 学校等に在学している場合
  2. 教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合

【適用時期】令和元年(2019年)7月1日以降に受贈者が30歳に達した場合

令和3年度改正

相続財産へ加算の「3年ルール」撤廃

平成31年度改正では贈与者の死亡前3年以内の贈与に係る管理残額を相続財産に加算することとなりましたが、令和3年度改正では「3年以内」の制限がなくなり、贈与者の死亡日における管理残額は原則として相続税の課税対象とされました。

ただし改正前と同様、死亡日において受贈者が次のいずれかに該当する場合は課税対象外となります。

  1. 23歳未満の場合
  2. 学校等に在学している場合
  3. 教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合

【適用時期】令和3年(2021年)4月1日以降に行われた贈与(信託)

受贈者が孫・ひ孫の場合は相続税の2割加算対象に

孫やひ孫が遺言などにより相続財産を取得した場合、相続税の課税を一世代~二世代分免れることになるため、支払う相続税が通常の2割増しとなります。

教育資金贈与を受けたのが子以外の直系卑属(孫やひ孫)の場合で、贈与者の死亡日における管理残額に相続税が課税されるとき、改正前は管理残額に対応する相続税額のみ2割加算対象から除外されていましたが、令和3年度改正では管理残額に対応する相続税額も2割加算の対象とされました。

【適用時期】令和3年(2021年)4月1日以降に行われた贈与(信託)

令和5年度改正

相続財産5億円超の場合は残額を必ず相続財産に加算

改正前は、贈与者の死亡日において管理残額があっても、受贈者が23歳未満や在学中など一定の要件を満たせば相続税の課税対象にはなりませんでした。

しかし、令和5年度改正では、死亡した贈与者の相続税の課税価格が5億円を超える場合には、受贈者が一定要件を満たしているかどうかに関わらず、管理残額を相続税の課税対象とすることとされました。

【適用時期】令和5年(2023年)4月1日以降に行われた贈与(信託)

使いきれなかった残額に対する贈与税は一般税率で計算

贈与税の税率は、直系尊属から贈与を受けた18歳以上の受贈者に適用できる「特例税率」と、それ以外の受贈者に適用される「一般税率」があり、「特例税率」の方が優遇されています。

教育資金贈与を受けた受贈者が30歳に達した時点等で管理残額がある場合には贈与税が課税されることとされており、その贈与税の計算の際、改正前は「特例税率」を適用することができましたが、令和5年度改正では「一般税率」を適用することとされました。

【適用時期】令和5年(2023年)4月1日以降に行われた贈与(信託)

まとめ

上記のとおり、一括贈与(信託)が行われた時期によって相続税・贈与税の取扱いが変わることがあるため、改正前の内容もきちんと押さえておかなければなりません。

改正を小出しにするのは本当にやめてほしいですね。


※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。

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