個人事業主が行うべき4つの節税対策の比較。メリット・デメリット
ポイント:小規模企業共済・国民年金基金・iDeCoは必ず検討すべし。短期的な節税を図りたい場合は経営セーフティ共済も効果的(ただし不動産所得のみの場合は加入不可)。
こんにちは。税理士の関田です。
「何か良い節税方法はないですか?」は税理士がお客様から最もよく受ける質問のひとつです。
様々な節税策が存在する法人とは違い、個人事業主の場合は打つことのできる節税策の種類が限られてしまうのですが、無駄な経費を使う前にまずは以下の4つを検討してみることをお勧めします。
目次
国民年金基金
制度の仕組み
国民年金基金とは、主に個人事業主などの国民年金の第1号被保険者が通常の国民年金(老齢基礎年金)に上乗せした年金を受け取ることのできる公的な個人年金制度です。
掛金は月68,000円が上限となっています(iDeCoにも加入している場合は、iDeCoの掛金と合わせて月68,000円が上限)。
掛金の税務上の取扱い
国民年金基金の掛金は全額が『社会保険料控除』として所得から控除されるため、「掛金×(所得税率+住民税率)」分の節税効果が生じます。
メリット
- 掛金が全額所得控除となる
- 受取った年金は雑所得として公的年金等控除が受けられる
- 死亡により遺族が受け取った一時金は相続税が非課税となる
- 終身型は亡くなるまで一生涯受け取れるため、長生きした場合のリスクに備えることができる
デメリット
- 任意で解約(脱退)することができない
- 付加年金と同時に加入することができない
- 給付額が確定しているためインフレに対応できない
個人型確定拠出年金(iDeCo)
制度の仕組み
個人型確定拠出年金(iDeCo/イデコ)とは、加入者が毎月一定額を拠出し、自ら金融商品を選択し運用したうえで、60歳以降に年金もしくは一時金を受け取ることのできる制度です。
国民年金第1号被保険者の場合、掛金は月68,000円が上限となっています(国民年金基金にも加入している場合は、国民年金基金の掛金と合わせて月68,000円が上限)。
掛金の税務上の取扱い
iDeCoの掛金は全額が『小規模企業共済等掛金控除』として所得から控除されるため、「掛金×(所得税率+住民税率)」分の節税効果が生じます。
メリット
- 掛金が全額所得控除となる
- 受取った年金は雑所得として公的年金等控除が受けられる
- 受取った一時金は退職所得として退職所得控除が受けられる
- 死亡により相続人が受け取った一時金はみなし相続財産として相続税の課税対象となるが、死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が使える
- 運用期間中の運用益(利息、分配金、売却益)は非課税
デメリット
- 原則として60歳まで引き出すことができない
- 運用状況によっては資産が減少する可能性がある
- 口座管理などの手数料がかかる
小規模企業共済
制度の仕組み
小規模企業共済とは、個人事業主や小規模法人の役員が毎月一定額を積み立て、廃業・退職時に一括もしくは分割で共済金を受け取ることのできる退職金制度です。
掛金は月70,000円が上限となっています。
掛金の税務上の取扱い
小規模企業共済の掛金は全額が『小規模企業共済等掛金控除』として所得から控除されるため、「掛金×(所得税率+住民税率)」分の節税効果が生じます。
メリット
- 掛金が全額所得控除となる
- 分割共済金は雑所得として公的年金等控除が受けられる
- 一括受取り共済金は退職所得として退職所得控除が受けられる
- 死亡により相続人が受け取った共済金はみなし相続財産として相続税の課税対象となるが、死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が使える
デメリット
- 掛金納付月数が240ヵ月未満の場合、解約すると元本割れする
- 給付額が確定しているためインフレに対応できない
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
制度の仕組み
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは、個人事業主や中小企業が取引先の倒産により売掛金を回収できなくなった場合に一定額までの貸付けが受けられる共済制度です。
掛金は月200,000円が上限となっています。
なお、前述の3つの制度は「廃業後・老後への備え」という名目で加入するものですが、こちらは制度の趣旨が異なります。
掛金の税務上の取扱い
経営セーフティ共済の掛金は全額が事業所得の必要経費として収入から控除されるため、「掛金×(所得税率+住民税率)」分の節税効果が生じます。
メリット
- 掛金が全額必要経費となる
- 取引先の倒産後、すぐに借入が受けられる
デメリット
- 掛金納付月数が40ヵ月未満の場合、解約すると元本割れする
- 最大で800万円までしか掛金を拠出することができない
- 解約時は全額が事業所得の収入となる(単なる利益の繰り延べ)
- 個人の不動産賃貸業の場合は加入できない
節税額シミュレーション
前提条件
上記の4つの節税対策を実施した場合としなかった場合で納税額にどのくらいの差が生じるのか、事例を使って検証してみます。
まず、前提条件は以下の通りです。
<対策前>
- 事業所得:900万円
- 所得控除計:50万円(住民税上の控除額も同額)
<実行した対策>
- 国民年金基金と確定拠出年金あわせて月68,000円で加入(年816,000円)
- 小規模企業共済に月70,000円で加入(年840,000円)
- 経営セーフティ共済に月200,000円で加入(年2,400,000円)
合計 年4,056,000円
対策実行前の納税額
課税所得:9,000,000円 - 500,000円 = 8,500,000円
所得税:8,500,000円 × 23% - 636,000円 = 1,319,000円
住民税:8,500,000円 × 10% = 850,000円
⇒ 納税額計:1,319,000円 + 850,000円 = 2,169,000円
※ 所得税については復興特別所得税は考慮しないものし、また住民税については均等割・税額控除等を考慮しないものとする。
対策実行後の納税額
事業所得:9,000,000円 - 2,400,000円 (c.) = 6,600,000円
所得控除計:500,000円 + 816,000円 (a.) + 840,000円 (b.) = 2,156,000円
課税所得:6,600,000円 - 2,156,000円 = 4,444,000円
所得税:4,444,000円 × 20% - 427,500円 = 461,300円
住民税:4,444,000円 × 10% = 444,400円
⇒ 納税額計:461,300円 + 444,400円 = 905,700円
※ 所得税については復興特別所得税は考慮しないものし、また住民税については均等割・税額控除等を考慮しないものとする。
節税効果
対策による節税額は以下の通りです。
2,169,000円(対策前) - 905,700円(対策後)= 1,263,300円
対策にかかったキャッシュは計4,056,000円ですから、約31%(1,263,300円÷4,056,000円)の節税効果があったことになります。
まとめ
もし節税対策の優先順位を訊かれたら、まず小規模企業共済への加入は必ずお勧めするとして、国民年金基金とiDeCo(あわせて月68,000円まで)のどちらに加入するか(両方加入する場合は掛金の配分をどうするか)についてはご本人の考え方によるかと思います。
「長生きリスクに備えたい」「資産運用に自信がない」という方には国民年金基金を、「一時金でも受け取れるようにしたい」「資産運用に抵抗がない」という方にはiDeCoを重視するようお勧めすることになるでしょう。
なお、経営セーフティ共済については”節税”というより”利益の繰り延べ”という性格が強いので、「先のことはともかく今の税金を減らしたい」という方にとっては利用価値がある制度といえます。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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