令和2年度(2020年度)税制改正大綱まとめ。寡婦控除の見直しなど
こんにちは。税理士の関田です。
去る12月12日、令和2年度(2020年度)の税制改正大綱が政府与党より発表されました。
正直なところ、目玉になるような大きな改正は無かった印象ですが、中小企業や個人にとって関係のありそうな改正項目を簡単にまとめてみました。
目次
未婚のひとり親の所得控除創設・寡婦(寡夫)控除の見直し
未婚のひとり親に対する所得控除の創設
現状、離婚や死別によるひとり親には「寡婦(寡夫)控除」という制度があるものの、そもそも婚姻していないひとり親に対しては税制上の支援がなく、不公平との指摘がなされてきました。
そこで、令和2年分の所得税からは、未婚のひとり親であっても、以下の要件をすべて満たす場合には35万円の所得控除を受けられるようになりました。
- 生計を一にする子(総所得金額等が48万円以下)がいる
- 合計所得金額が500万円以下である
- 住民票に事実婚の夫(もしくは妻)がいる旨の記載がない
寡婦控除・寡夫控除の見直し
一方、従来から存在する寡婦控除・寡夫控除についても、寡婦(女性)と寡夫(男性)との不公平感が指摘されてきたため、令和2年分の所得税から以下の見直しが行われることになりました。
- 寡婦控除にも「合計所得金額500万円以下」の要件を追加
- 寡婦(寡夫)控除に「住民票に事実婚の夫(もしくは妻)がいる旨の記載がない」の要件を追加
- 生計を一にする子がいる寡婦(寡夫)の控除額を「35万円」に増額
以上を整理すると、見直し後の寡婦(寡夫)控除の適用要件と控除額は次のとおりとなります。
寡婦控除
1.適用要件
次の要件①もしくは②のいずれかに当てはまる人。
<要件①>
- 夫と死別、もしくは離婚した後婚姻していない
- 扶養親族又は生計を一にする子(総所得金額等が48万円以下)がいる
- 合計所得金額が500万円以下である
- 住民票に事実婚の夫がいる旨の記載がない
<要件②>
- 夫と死別した後婚姻していない
- 合計所得金額が500万円以下である
- 住民票に事実婚の夫がいる旨の記載がない
2.控除額
<要件①をすべて満たす場合>
- 生計を一にする子あり … 35万円
- 子以外の扶養親族あり … 27万円
<要件②をすべて満たす場合>
27万円
寡夫控除
1.適用要件
- 妻と死別、もしくは離婚した後婚姻していない
- 生計を一にする子(総所得金額等が48万円以下)がいる
- 合計所得金額が500万円以下である
- 住民票に事実婚の妻がいる旨の記載がない
2.控除額
35万円
国外居住親族に係る扶養控除の制限
日本国外に居住する親族のうち、年齢30歳以上70歳未満で次のいずれにも該当しない者については、扶養控除の対象から除外されます。
- 留学により非居住者となった者
- 障害者
- その年の生活費又は教育費として38万円以上の仕送りを受けている者
この改正は、令和5年分の所得税から適用されます。
NISAの延長・新設・終了
つみたてNISAの延長
令和19年までとなっていたつみたてNISAの投資期限が令和24年まで5年間延長されます。
新NISAの創設
現行NISAの投資期限は令和5年までとなっていますが、令和6年からは新NISA制度がスタートしたうえで投資期限が令和10年まで5年間延長されます。
新NISAは、低リスク商品に積立投資する1階部分(年20万円まで)と、リスク商品にも投資できる2階部分(年102万円まで)で構成され、トータルで年間122万円の投資が可能となります。
なお、つみたてNISAと新NISAは選択制です。
ジュニアNISAの終了
利用者数が伸び悩んでいたジュニアNISAについては、投資期限となっている令和5年をもって終了となります。
低未利用土地等を譲渡した場合の特別控除の創設
所有期間が5年を超える都市計画区域内の低未利用土地等を譲渡した場合に、長期譲渡所得から100万円の特別控除を受けられる制度が創設されます。
対象となるのは、令和2年7月1日(もしくは関係法律の施行日のいずれか遅い日)から令和4年12月31日までに行われた譲渡についてです。
国外中古建物の不動産所得に係る損益通算の制限
国外不動産の賃貸による不動産所得で損失が生じる場合、その損失のうち、耐用年数を簡便法で計算した国外中古建物の減価償却費に相当する金額は生じなかったものとみなされ、他の所得との損益通算ができなくなります。
耐用年数を経過した海外不動産を購入し、減価償却で赤字にして損益通算・節税するというスキームを封じるための改正です。
なお、国外中古建物を譲渡した場合の譲渡所得の計算上は、上記の「生じなかったものとみなされ」た金額は取得費として控除することができます。
この損益通算制限は、令和3年分の所得税から適用されます。
所有者不明土地等に係る固定資産税の課税
所有者の死亡後、相続登記のなされていない不動産について、現に所有している者に氏名、住所その他固定資産税の課税に必要な事項を申告させることができることとされます。
また、市町村が一定の調査をしてもが現所有者が判明しない場合には、その使用者を所有者とみなして固定資産税を課税することができることとされます。
この改正は、令和3年度分の固定資産税から適用されます。
法人に係る消費税の申告期限の延長
これまで、消費税ついては法人税のような申告期限の延長が認められていなかったため、2ヵ月以内に決算が確定していない場合にはやむなく概算で申告書を提出し、決算確定後に修正申告もしくは更正の請求を行うといったケースがありました。
そこで、法人税の申告期限の延長を受けている法人については、消費税についても届出を行うことにより1ヵ月の申告期限の延長が認められることとなりました。
なお、延長期間中に納める消費税については、法人税と同様、利子税が課税されます。
この改正は、令和3年3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から適用されます。
居住用賃貸建物の取得に係る消費税の仕入税額控除の制限
金売買スキームなどによる強引な消費税還付を封じるため、高額特定資産(取得価額1,000万円以上)に該当する建物のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物(テナントビルなど)以外については、仕入税額控除の適用が認められないことになりました。
ただし、「1階が店舗、2階以上が居住用」といったように、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分がある場合には、その部分(1階店舗)については仕入税額控除が可能です。
なお、取得時に仕入税額控除が認められなかった場合でも、取得後3年以内に「住宅以外の用途に転用」もしくは「売却」した場合には、その時点で仕入税額控除の調整が行われます。
この改正は、令和2年10月1日以降に行う居住用賃貸建物の取得について適用されます(ただし、令和2年3月31日までに契約を締結している場合には適用されません)。
納税地の異動に伴う振替納税手続の簡素化
現状、振替納税を行っている個人が引っ越しに伴い納税地を異動する際、それが別の税務署管内への異動の場合には新たに振替納税の手続きを行う必要があります(同一管内の税務署であれば不要)。
これは非常に面倒ですし、手続きを忘れて振替がなされないというケースも少なくありませんでした。
そこで、令和3年1月1日以後に提出する「納税地の異動届出書」について、異動後も引き続き同じ口座で振替納税を行う旨の記載がある場合には、新たな振替納税手続きが不要とされました。
これで、引っ越しにより予期せぬ所得税の延滞発生、という事態は避けられそうです。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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