中小企業の法人税の申告期限延長の特例。その要件と手続き
ポイント:申告期限の延長の特例の申請書は、万が一に備えてとりあえず出しておくことが重要。メリットはあってもデメリットなし。
こんにちは。税理士の関田です。
法人税の申告期限は原則として事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内ですが、2017年度の税制改正により、監査法人による監査を受ける大企業などは最大4ヵ月間の延長が認められるようになりました。
この申告期限の延長の特例、一般的な中小企業でも受けることができます。
※以下すべて、会計監査人や連結納税とは無縁の中小企業を前提に書いています。
目次
中小企業は申告期限を1ヵ月延長できる
「申告期限の延長の特例」とは
本来、法人税の申告期限は、その事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内です。
例えば3月決算の法人であれば、5月31日(月末が土日の場合は翌月曜日)が期限となります。
しかし、事前に申請手続きを行うことで、一般的な中小企業でも申告期限を1ヵ月(上記の例の場合は6月30日まで)延長することが可能です。
延長できる要件
中小企業が申告期限を1ヵ月延長するには、会社の定款に
「定時株主総会は、毎事業年度の終了後3ヵ月以内に召集する…」
旨の記載が必要になります。
法人税の申告は、定時株主総会の承認により決算が確定してから行うのが建前です。
つまり、定時株主総会が2ヵ月以内に開催されない場合は申告期限までに決算が確定しない、だから申告期限を1ヵ月延長してほしい、というわけです。
要件を満たさない場合は定款を変更しよう
多くの会社の定款では、定時株主総会の召集時期は事業年度終了から3ヵ月以内となっていますが、もし2ヵ月以内となっている場合には、定款の規定を「3ヵ月以内」に変更してしまいましょう。
定款変更には株主総会の特別決議(出席株主の議決権数の2/3以上の賛成)が必要ですが、登記は必要なく、株主総会の議事録を作成するだけです。
申告期限の延長の特例の申請手続き
税務署への申請
まず税務署へ、法人税の「申告期限の延長の特例の申請書」を提出します。
提出期限は、最初に適用を受けようとする事業年度終了の日までです。
つまり、3月決算法人の場合、3月31日までに提出しておく必要があります。
「定款の写し」を添付する必要がありますが、定款変更を行っている場合で定款を新しく作り直していないときは、「定款の写し + 定款変更を決議した株主総会議事録の写し」を添付すればOKです。
都道府県への申請
続いて都道府県税事務所へ、法人都道府県民税(住民税)と法人事業税について「申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書」を提出します。
⇒ 埼玉県HP 『申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書』
都道府県民税については「法人税の申告期限の延長処分があったので届け出ます」、事業税については「事業税の申告期限の延長を申請します」という書き方になっていますが、1枚の書類にまとまっています。
提出期限は、
・都道府県民税…事業年度終了の日から22日以内
・法人事業税…事業年度終了の日まで
となっていますが、通常はどちらも事業年度終了の日までにまとめて提出してしまいます。
添付書類については、定款等の写しのほか、税務署へ提出した法人税の「申告期限の延長の特例の申請書」の写しが必要になる場合もありますので、念のため各自治体のHP等でご確認ください。
市町村への申請
東京23区以外の法人は、市町村に対しても法人市町村民税(住民税)の延長の手続きが必要です。
法人市町村民税については、延長の届出用の書式が定められていない自治体が多く、異動届などに記載して提出するケースが大半です。
法人税の申告期限の延長の特例が認められた法人は、法人市町村民税の申告期限も同時に延長されることから、特に届出書の提出期限は定められていませんが、税務署や都道府県への申請と同じタイミングで提出するのが一般的です。
添付書類や書式については各自治体のHP等でご確認ください。
申告期限を延長した際に注意すべきこと
税金の納期限は延長されない
あくまで申告書の提出期限の延長ですので、税金の納期限は原則どおり2ヵ月以内です。
申告期限を延長している場合で、税金の納付が2ヵ月経過後になると、「利子税」という利息のようなものが課されます。
延滞税のようなペナルティではないため損金(経費)にできますが、税額によっては結構な金額になります。
そのため利子税がつかないよう、申告書を2か月経過後に提出する場合でも、2ヵ月以内に概算の税額を納税する「見込納付」を行うケースが多いです。
最終的に税額が確定し申告書を提出する段階で、
・見込納付額で足りなければ、差額を追加で納税
・見込納付額が多すぎれば、差額が還付
となります。
消費税の申告期限は延長されない
消費税については申告期限の延長の特例はありませんので、うっかり2ヵ月を経過してから申告・納税をすると、
・申告書は期限後申告扱い
・税金は延滞税、無申告加算税の対象
となってしまいます。
とりあえず延長しておくことが大事
中小企業の場合、申告期限の延長の特例の申請は「やむを得ず出す」というよりは「万が一の時のためにとりあえず出しておく」というイメージです。
これまで毎年必ず2ヵ月の期限内に申告をしていた会社でも、申告期限間近に社長や経理担当者が急病等になり、申告期限に間に合わなくなるという事態は十分に起こりうるものです。
この場合、申告期限が延長されていれば救われるケースが多いですが、延長されていない場合にはペナルティが待ち受けています。
申告期限を延長しておくメリットはあっても、デメリットはありません。
これから会社を設立される場合は設立届と一緒に、まだ延長申請していない会社は今からでも必ず延長申請をしておきましょう。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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