相続税申告は税理士に依頼するべきか?自分でも申告できるケースとは

ポイント:納税が発生しない相続税申告であれば、自分で行うのも選択肢の一つ。


こんにちは。税理士の関田です。

税理士会や市役所などの無料税務相談会場へ行くと、相続税の申告書を自分で作成し始めたものの途中で躓いてしまったので教えてほしい、という相談者の方が結構いらっしゃいます。

実務を知っているだけに、正直ちょっと怖いなと思うこともありますが、税理士に依頼した場合の費用を考え「できるなら自分で」となる気持ちも理解できます。

相続税申告を自分でできそうなケースと税理士に依頼した方が良いケースをまとめましたので、迷われている方はご参考にしていただければ。

自分で申告できそうなケース

以下のようなケースでは、自力でチャレンジしてみても良いのではないかと思います。

「配偶者の税額軽減」により相続税がゼロとなる場合

配偶者については、相続した遺産が1億6,000万円まで(1億6,000万円を超えたとしても配偶者の法定相続分相当額まで)であれば相続税がかからないという特例があります。

したがって、たとえば、

  • 遺産総額が1億6,000万円以下で、遺産分割協議の結果、配偶者が全財産を相続した
  • 法定相続人が配偶者だけしかいない

といったケースでは、納めるべき相続税はゼロということになります。

この特例を使うためには相続税申告書の提出が必要とされていますので、遺産総額が基礎控除額を超えていれば無申告というわけにはいきませんが、上記のように納税が発生しないことが明らかであれば、財産評価などに多少の間違いがあったとしても大きな問題にはならないと思われます。

「小規模宅地等の評価減」により相続税がゼロとなる場合

居住用建物や事業用建物の敷地(土地)については、一定の要件を満たせば評価額を最大80%減額してもらえる特例があります。

したがって、評価減適用”後”の遺産総額が基礎控除額以下であれば、納めるべき相続税はゼロということになります。

この特例を使うためには相続税申告書の提出が必要とされていますので、評価減適用”前”の遺産総額が基礎控除額を超えていれば無申告というわけにはいきませんが、評価減適用”後”の遺産総額が基礎控除額に達しないようであれば自分で申告してみても良いでしょう。

ただし、この特例は適用要件が大変細かく定められており、しかも頻繁に改正が行われます。

「被相続人の自宅を同居親族が相続して住み続ける」といったシンプルなケースであれば問題ありませんが、要件を満たすかどうか微妙なケースでは慎重な判断が必要でしょう。

遺産のほとんどが金融資産の場合

相続税申告書作成の大きなハードルは「財産評価」ですが、遺産の大半が金融資産であれば難易度はそれほど高くありません。

預貯金については相続開始時点の残高がそのまま評価額になるだけです(定期性預金は既経過利息も加算しなければなりませんが)。

また上場株式や投資信託についても、証券会社が残高証明書とともに参考資料(評価に必要な時価情報)を出してくれることが多いので、比較的容易に評価できるはずです。

気を付けなければいけないのは評価よりもむしろ、名義預金・名義株式等(名義は被相続人以外の親族だが、実質的に被相続人の相続財産となるもの)の確認・計上を怠らないことでしょう。

土地の評価が簡単な場合

一般的に難しいとされている土地評価ですが、「倍率方式」で評価する土地であれば『固定資産税評価額 × 一定倍率』が評価額となりますので比較的簡単です。

また、「路線価方式」で評価する土地でも、区画整理後の住宅地のようにきれいな正方形に近い土地で一つの道路にしか面していなければ、加算要因も減額要因もないため、単純に『路線価 × 土地面積』がそのまま評価額となるでしょう。

土地があるからといって、必ずしも自分で申告できないというわけではないのです。

税理士に依頼した方がいいケース

一方、以下のようなケースでは、なるべく税理士に依頼することをお勧めします。

税務調査に入られたくない場合

相続税申告は、法人税や所得税の確定申告よりも高い確率で税務調査が入ります。

といっても現状は10件に1件程度ですが、税理士に依頼せず自分で申告した案件に限れば、その割合はもう少し上がるのではないかと思います。

なぜなら、税務署の調査官目線で考えると、相続人が自分で作成した申告書は税理士が作成したものよりも信頼性が劣るからです(なかには信頼できない税理士もいますが・・・)。

先に触れた「名義財産」もそうですが、相続税申告に慣れた税理士であれば当然に相続財産として計上するものであっても、相続人自身はまさか相続税の対象になるとは思っていなかった、という財産が実は結構あるのです。

税理士の署名がない申告書が提出されれば、多くの調査官は「何かしら漏れているのではないか?」という疑いの目で見るでしょう。

もちろん、税理士に依頼したからといって税務調査が来ないということではありませんけれど。

土地の数が多い・評価の難易度が高い場合

土地が相続財産の大半を占めていたり、評価が難しそうな土地(不整形、道路付けが悪い等)があったりする場合には、税理士に依頼するべきです。

自分で評価するよりも大幅に評価額が下がり納税額が安く済むのであれば、税理士に報酬を支払っても十分にお釣りがくるでしょう。

大事なのは、”相続税申告に慣れた”税理士に依頼すること。

財産評価に精通した税理士であれば、税務だけでなく「建築基準法」や「都市計画法」の知識も使って土地の評価額を最大限下げる努力をしてくれるはずです。

遺産が未分割の状態で申告する場合

遺産分割協議がまとまらず未分割の財産がある場合には、いったん各相続人が法定相続分に応じて取得したものとして申告・納税することになります。

ただし、未分割財産については「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の評価減」の特例を使うことができません

その後遺産分割が確定すれば特例を使えるようになるのですが、そのためには当初申告の段階で「分割見込書」を提出しておき、分割確定後に「更正の請求」を行うなど、通常の申告以外にもやらなければいけない手続きが出てきます。

万が一ミスをすれば、特例を使えず余計な税金を支払う羽目になりますので、未分割申告の場合は税理士に依頼した方が安心でしょう。

時間がない場合

相続税の申告期限は、原則として相続発生から10ヵ月以内です。

「10ヵ月」と聞くと長いように思われますが、相続後は様々な行事・手続きが波のように押し寄せてきますので、驚くほどあっという間に経過してしまいます(実際、相続人の皆様は口を揃えてそう仰います)。

時間に余裕のある方であれば、一から調べながらじっくりと申告書を仕上げるのもいいでしょう。

ですが、仕事などが忙しく相続手続きに割ける時間が限られている方については、早めに税理士へ依頼する(=時間と労力をお金で買う)ことをお勧めします。

「途中まで頑張ったんですけどやっぱり無理でした・・・」と申告期限まで残りわずかのタイミングで相談してみても、引き受けられる税理士は限られてくるかと思いますので。。

まとめ

最近では、相続税申告を自分で行いたい方向けの”指南本”もたくさん売られています。

それらを読んでみて「自分でも出来そうだ」と思ったらやってみても良いと思います。

ただ、少なくとも私から言えるのは「相続税の納税が発生する場合は税理士に頼んだ方が安心」ということです。

税理士にとっても、”簡単な相続税申告”というものはそう滅多にありませんので。


※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。

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