譲渡費用になりそうでならないもの。相続登記費用、抵当権抹消費用…
ポイント:譲渡費用として認められるのは「譲渡のために直接要した費用」のみ。譲渡がなかったとしても発生する費用は対象外。
こんにちは。税理士の関田です。
土地建物の売却にあたっては、不動産屋に支払う仲介手数料をはじめ様々な費用がかかるため、たとえ希望の価格で売れたとしても実際の手残り額は思いのほか少なく感じることもあるでしょう。
さらに翌年は売却益に対する譲渡所得税・住民税の支払いも待っていますので、売却時にかかった費用はできる限り譲渡所得の経費として計上したいところですが、何でもかんでも入れられるわけではありません。
実務上、つい譲渡費用に入れてしまいがちな(しかし認められていない)売却諸経費の代表例を確認しておきましょう。
譲渡費用とは?
まずは、譲渡費用の範囲について通達の条文を確認しておきましょう。
所得税基本通達33-7 譲渡費用の範囲
法第33条第3項に規定する「資産の譲渡に要した費用」(・・・)とは、資産の譲渡に係る次に掲げる費用(取得費とされるものを除く。)をいう。
(1)資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用
(2)(1)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(・・・)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用
(注) 譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。
※一部筆者にて編集
ポイントは、「譲渡のために直接要した費用」が対象であり、「維持又は管理に要した費用」は対象外ということです。
以下の例に挙げたものが譲渡費用に該当しない理由も、上記通達にあてはめればご理解いただけると思います。
譲渡費用にならないもの
それでは、譲渡費用になると勘違いされやすい諸経費をみてみましょう。
相続登記費用
相続により取得した不動産を売却した場合、相続登記費用は、
- 非事業用不動産(自宅など)であれば「取得費」に含める
- 事業用不動産(賃貸アパートなど)であれば不動産所得の「必要経費」に計上する
ことができますが、譲渡費用にはなりません。
なお、非事業用不動産でそもそもの取得価額が不明のため概算取得費(売却代金×5%)を使う場合、相続登記費用は取得費にも計上できませんのでご注意ください。
抵当権抹消登記費用
不動産を売却するために銀行ローンを完済した場合であっても、抵当権抹消登記費用を譲渡費用に含めることはできません。
これは、抵当権抹消費用が必ずしも「譲渡のために直接要した費用」に該当するとはいえないためです。
たとえば、仲介手数料は不動産の譲渡が無ければ発生しない費用だが、抵当権抹消費用はもし不動産の譲渡が無かったとしてもローンを完済すれば発生する費用である、といえばお分かりいただけるでしょうか。
住所変更登記費用
売主の登記上の住所が引っ越し前の古い住所だった場合、売却のタイミングで住所変更登記を行いますが、これも「譲渡のために直接要した費用」に該当するとはいえません。
本来は住所を移転した時点で発生していたはずの費用だからです。
固定資産税
固定資産税は毎年かかるものですので譲渡費用にならないのは自明とも思えますが、「売却年の固定資産税は譲渡費用になるのではないか」と誤解されている方もいらっしゃるようです。
通達でも最後の注書きで譲渡費用にならないことが明記されています。
ちなみに、売主が買主から受領した固定資産税精算金(日割分)は「譲渡収入」に含めて申告しなければなりませんのでご注意ください。
家財・ゴミ廃棄費用
主に空き家を売却する場合、家の中にある不要な家財やごみなど残置物の撤去・処分費用がかかる場合がありますが、これは建物の「維持又は管理に要した費用」にあたるため基本的には譲渡費用になりません。
ただし、残置物撤去が特約条項となっているなど買主の要望がある場合には譲渡費用として認められる可能性があります。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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