2019年度税制改正大綱を読む・その④。個人版の事業承継税制の創設
ポイント:2019年から10年間限定で、個人事業主の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度が創設。また、特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例も一部改正に。
こんにちは。税理士の関田です。
2019年度(平成31年度)税制改正大綱の重要項目解説、4回目は個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の創設等についてです。
個人版の事業承継税制は…果たしてどのくらいの人が使うんですかね…。
目次
個人事業者の事業用資産に係る「相続税」の納税猶予制度の創設
制度の概要
認定相続人(※)が、2019年(平成31年)1月1日から2028年(平成40年)12月31日までの間に、相続等により「特定事業用資産」を取得し、事業を継続していく場合には、その特定事業用資産の課税価格に対応する相続税の納税が猶予されます。
※ 認定相続人 … 2019年(平成31年)4月1日から2024年(平成36年)3月31日までの間に都道府県に提出された「承継計画」に記載された後継者であって、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の規定による認定を受けた者
特定事業用資産とは
納税猶予の対象となる「特定事業用資産」とは、被相続人の事業(不動産貸付事業等を除く)の用に供されていた次に掲げる資産をいいます。
- 土地(面積400㎡までの部分に限る)
- 建物(床面積800㎡までの部分に限る)
- その他減価償却資産(固定資産税又は自動車税等の課税対象となっているものその他これらに準ずるものに限る)
猶予税額
猶予税額の計算方法は、非上場株式等についての相続税の納税猶予制度の特例と同様です。
事業を引き継いだ認定相続人が、
- 亡くなるまで特定事業用資産を保有し、事業を継続した場合
- 相続税の申告期限から5年経過後に次の後継者へ特定事業用資産を贈与し、その後継者が贈与税の納税猶予制度の適用を受ける場合
などでは猶予税額が全額免除されるほか、非上場株式等についての特例に準じて猶予税額の一部が免除されるケースもあります。
ただし、認定相続人が事業を廃止した場合や特定事業用資産の譲渡等をした場合には、猶予税額を納付(全額又は一部)しなければなりません。
注意点
この特例の適用にあたり、主な注意すべき点は以下のとおりです。
- 認定相続人は、相続税の申告期限から3年毎に継続届出書を税務署へ提出しなければなりません。
- 被相続人に借入金などの事業用債務がある場合、特定事業用資産の価額から事業用債務の額を控除した額を猶予税額の計算の基礎とします。
- この特例の適用を受ける場合には、特定事業用資産である土地について「小規模宅地等の評価減」の特例の適用を受けることはできません。
個人事業者の事業用資産に係る「贈与税」の納税猶予制度の創設
制度の概要
認定受贈者(18歳(2022年3月31日までの贈与については20歳)以上である者に限る)が、2019年(平成31年)1月1日から2028年(平成40年)12月31日までの間に、贈与により「特定事業用資産」を取得し、事業を継続していく場合には、その特定事業用資産の課税価格に対応する贈与税の納税が猶予されます。
なお、認定受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人以外の者であっても、贈与者がその年1月1日において60歳以上の場合には、相続時精算課税の適用を受けることが可能です。
猶予税額
猶予税額の免除、納付等については、上記の相続税の納税猶予制度と同様です。
贈与者が死亡した場合
贈与者の死亡時には、特定事業用資産(既に納付した猶予税額に対応する部分を除く)をその贈与者から相続等により取得したものとみなし、贈与時の時価により他の相続財産と合算して相続税を計算しますが、その際、都道府県の確認を受けた場合には、相続税の納税猶予の適用を受けることができます。
特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の評価減の特例の見直し
相続開始前3年以内に事業供用された宅地は対象外に
被相続人の事業(不動産貸付事業等を除く)の用に供されていた宅地等を取得した相続人が、相続税の申告期限までその宅地等を保有し事業を継続した場合には、相続税の計算上、その宅地等の評価額を最大400㎡まで80%減額できる特例があります。
今回の改正では、この特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の評価減の特例について、特定事業用宅地等の範囲から「相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等」が除外されることになります。
ただし、その宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産(事業用建物など)の価額がその宅地等の相続時の価額の15%以上である場合には、たとえ相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等であっても特例の対象となります。
適用時期
上記の改正は、2019年(平成31年)4月1日以後に相続等により取得する宅地等について適用されます。
ただし、同日前から事業の用に供されている宅地等については、この「3年ルール」の対象外となります。
たとえば、2018年12月に被相続人が事業の用に供した宅地について、2019年4月に発生した相続により相続人がその宅地を取得し事業を継続した場合には、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地ではあるものの、特定事業用宅地等として小規模宅地等の評価減が認められます。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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