貸倒引当金と法定繰入率。複数の事業を営んでいる場合の計算方法は?

ポイント:複数事業を営む会社が貸倒引当金を法定繰入率により計算する場合、その会社の「主たる事業」を判定し、その事業に応じた法定繰入率”だけ”を使用する。


こんにちは。税理士の関田です。

決算期末に多額の売掛金や貸付金がある場合、一括評価による貸倒引当金を設定している会社が多いかと思います。

一般的に、一括評価金銭債権に対する貸倒引当金は事業区分に応じた「法定繰入率」を使用して計算しますが、もしも会社が複数の事業を営んでいたらどのように計算するのでしょうか?

一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の法定繰入率

売掛金や受取手形、貸付金といった債権については、万が一将来回収できなくなった場合の損失に備えて、一定の「貸倒引当金」を設定することが税務上認められています。

これらの債権のうち、貸倒れ等による損失が見込まれない通常の債権(一括評価金銭債権)に対して設定する貸倒引当金は、原則として過去3年間の「貸倒実績率」により計算することとされています。

ただし、資本金1億円以下の法人では、貸倒実績率に代えて、法人が営む事業の区分に応じた「法定繰入率」により計算することが認められており、中小企業では実務上こちらの方法を採用するケースがほとんどです。

事業区分 法定繰入率
卸売業、小売業、飲食店業 10/1,000
製造業、電気業、ガス業、水道業、修理業 8/1,000
金融業、保険業 3/1,000
割賦販売小売業等 7/1,000
その他の事業(サービス業、建設業、不動産業など) 6/1,000

複数の事業を営んでいる場合の法定繰入率

法人が複数の事業を営んでいる場合には、その法人の主たる事業について定められている法定繰入率により計算することとされています。

債権を各事業ごとに区分して、それぞれの法定繰入率を適用することは認められていません。

ここで、どの事業が主たる事業にあたるのかが問題となりますが、措置法通達では以下のように定められています。

措通57の9-4(主たる事業の判定基準)

法人が措置法令第33条の7第4項に掲げる事業の2以上を兼営している場合における貸倒引当金勘定への繰入限度額は、主たる事業について定められている割合により計算し、それぞれの事業ごとに区分して計算するのではないことに留意する。この場合において、いずれの事業が主たる事業であるかは、それぞれの事業に属する収入金額又は所得金額の状況、使用人の数等事業の規模を表す事実、経常的な金銭債権の多寡等を総合的に勘案して判定する。

というわけで、「総合勘案して判定すべし」というやや曖昧な表現にはなっていますが、実務上は売上金額が一番大きい事業を主たる事業と判定するケースが多いのではないでしょうか。

一時的に収益構成に変動があった場合は?

では、その期だけたまたま売上構成などに変動があった場合、主たる事業はどのように判定したらいいのでしょうか?

この点について、先ほどご紹介した措置法通達には以下のような注書きがあります。

(注) 法人が2以上の事業を兼営している場合に、当該2以上の事業のうち一の事業を主たる事業として判定したときは、その判定の基礎となった事実に著しい変動がない限り、継続して当該一の事業を主たる事業とすることができる。

たとえば、小売業をメインにし不動産業も兼業している法人で、たまたまその期だけ不動産業の売上が小売業を上回ってしまったとしても、それが一過性のものであり本業はあくまで小売業のままであれば、小売業の法定繰入率を継続して適用することができるということです。


※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。

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