築古なら評価額が下がることも。マンション通達改正後の評価実例
ポイント:築年数が古い中低層の分譲マンションでは、従来よりも評価額が下がるケースもある。
こんにちは。税理士の関田です。
行き過ぎたタワマン節税に歯止めをかけるべく、2024年(令和6年)1月以降の相続・贈与から適用がスタートした分譲マンションの改正評価通達。
「従来の相続税評価額」と「時価」との乖離が大きい都市部の築浅タワーマンションでは評価額が従来の2倍以上に跳ね上がることも珍しくありませんが、地方の築古マンションではむしろ評価額が従来より大幅に下がるケースもあります。
今年に入ってから弊所で実際に相続税評価を行った分譲マンションを例に、評価額が下がるケースをご確認いただければと思います。
目次
区分所有マンション評価の基本
まずは基本となる区分所有マンションの相続税評価の方法(路線価地域にある場合)を確認しておきましょう。
「マンション」と一口に言っても、その中身は、
- 建物(区分所有権)
- 土地(敷地利用権)
とに分かれています。
建物については、自治体が算出したその専有部分の固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。
一方、土地については、(不整形地等補正後の)路線価に敷地面積を乗じて敷地全体の評価額を算出し、さらに敷地に対する持分(敷地権割合)を乗じた金額が相続税評価額となります。
以上を合計したものが区分所有マンションの相続税評価額です。
改正評価通達による評価
2024年1月以降に相続や贈与で取得した区分所有マンションについては、上記により計算した従来の評価額に更なる補正を加えて最終的な評価額を算出します。
この補正の仕組みが少々複雑ですので、順を追ってご説明しましょう。
ステップ①:評価乖離率の計算
まずは、相続税評価額と時価(実勢価格)がどのくらい乖離しているかを表す「評価乖離率」という数値を計算します。
評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220
A:マンションの築年数(1年未満の端数は1年)× △0.033
B:総階数指数(※) × 0.239(小数点以下第4位切捨)
※ 総階数指数 = 地階を除くマンションの総階数 ÷ 33(小数点以下第4位切捨、1を超える場合は1)
C:専有部分の所在階 × 0.018
D:敷地持分狭小度(※1) × △1.195(小数点以下第4位切上)
※1 敷地持分狭小度 = 敷地利用権の面積(※2) ÷ 専有部分の床面積(小数点以下第4位切上)
※2 敷地利用権の面積 = マンションの敷地面積 × 敷地権割合(小数点以下第3位切上)
上記の算式により計算した「評価乖離率」が大きければ大きいほど実勢価格(時価)に比べて相続税評価額が安すぎることを意味します。
ステップ②:評価水準の計算
次に、「評価水準」を計算します。
評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率
この「評価水準」は「評価乖離率」の逆数ですので、小さければ小さいほど実勢価格(時価)に比べて相続税評価額が安すぎることを意味します。
ステップ③:区分所有補正率の計算
続いて、「評価水準」の数値に応じた「区分所有補正率」を計算します。
【 評価水準 < 0.6 】の場合 ⇒ 区分所有補正率 = 評価乖離率 × 0.6
【 0.6 ≦ 評価水準 ≦1 】の場合 ⇒ 補正なし
【 1 < 評価水準 】の場合 ⇒ 区分所有補正率 = 評価乖離率
この時点で、評価水準が【0.6以上1以下】の場合は補正が行われず従来の評価額そのままで評価することが確定します。
今回の改正は区分所有マンションの相続税評価額を少なくとも実勢価格の6割まで引き上げることが目的ですので、評価水準が0.6以上あればそれ以上に評価額を引き上げる必要はないということです。
ステップ④:補正後の評価額を計算
最後に、評価水準が【0.6未満】または【1超】の物件について、土地・建物それぞれ従来の評価額に「区分所有補正率」を乗じて最終的な評価額を計算します。
(評価水準が【0.6未満】または【1超】の場合)
建物(区分所有権)の相続税評価額 = 従来の評価額 × 区分所有補正率
土地(敷地利用権)の相続税評価額 = 従来の評価額 × 区分所有補正率
以上、かなり面倒な計算になってはいますが、特に複雑なステップ①~③の計算については国税庁のHPでダウンロード可能な自動計算用のExcelファイルを使うと便利です。
登記簿謄本の記載内容をあてはめれば自動的に区分所有補正率が算出されますので、ぜひお試しください。
⇒ 国税庁HP『居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書』
評価額が従来よりも下がった実例
基本的には評価額を引き上げるために行われた今回の改正ですが、逆に評価額が従来より下がるケースもあります。
それが、「評価水準」が1を超える物件で、実勢価格(時価)が相続税評価額を下回っていることを意味します。
どのくらい築年数・規模のマンションでどの程度評価が下がるのか参考にしていただくため、実際に弊所で行った築古分譲マンションの評価実例をご紹介しましょう(分かり易くするため各数字は丸めています)。
【物件概要】
所在地:さいたま市
築年数:48年3ヵ月
総階数/所在階:4階/2階
専有部分の床面積:75㎡
敷地の面積:2,150㎡
敷地権割合:269/10,000
【従来の評価額】
建物(区分所有権):3,800,000円
土地(敷地利用権):5,100,000円
↓
(1)区分所有補正率の計算
①評価乖離率
A:49年 × △0.033 = △1.617
B:4階 ÷ 33 =0.121 → 0.121 × 0.239 = 0.028
C:2階 × 0.018 = 0.036
D:2,150㎡ × 269/10,000 = 57.84㎡ → 57.84㎡ ÷ 75㎡ = 0.772 → 0.772 × △1.195 = △0.923
評価乖離率:A+B+C+D+3.220 = 0.744
②評価水準
1 ÷ 0.744 = 1.344・・・
③区分所有補正率
1 < 1.344・・・ ⇒ 0.744
④建物(区分所有権)の相続税評価額
3,800,000円 × 0.744 = 2,827,200円
⑤土地(敷地利用権)の相続税評価額
5,100,000円 × 0.744 = 3,794,400円
まとめ
上記の物件は、従来の評価であれば土地建物合計で8,900,000円だったところ、新通達による評価では6,621,600円となり、2,278,400円も評価額が下がりました。
ポイントは、評価乖離率の計算上、
- 築年数が古いため「A」のマイナス幅が大きくなった
- 中層マンションのため一戸当たりの敷地利用権の面積が広く「D」のマイナス幅が大きくなった
ということです。
築古の中低層マンションではこのように評価が下がるケースも少なくないかと思いますので、お持ちの方はぜひ一度試算してみていただければと思います。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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