換価分割と代償分割。相続した不動産を売却する場合はどっちが有利?
ポイント:相続した財産を売却・現金化して分ける場合、「換価分割」「代償分割」という2つの手法があるが、最終的な手残り額を試算していずれか有利な方を選択すべし。
こんにちは。税理士の関田です。
相続が発生し遺産を分割する際には、遺産のひとつひとつを現物のまま相続人間で分ける方法(現物分割)をとるのが一般的です。
しかし、たとえば遺産が自宅の土地建物だけしかないなど現物のまま分割することが難しい場合には、「換価分割」あるいは「代償分割」という方法をとることになります。
もし遺産を売却し現金化してから分けようとする場合、上記2つのいずれの方法にもよることができますが、どちらの方法を選ぶかによって売却後の手残り額が変わってくるケースもあるため注意が必要です。
目次
換価分割とは
概要
換価分割とは、遺産を売却して現金化し、その現金を各相続人間で分ける遺産分割方法です。
主に、
- 遺産の大半が不動産であり現物分割が難しい
- 遺産を平等に分けたい
- 相続税の納税資金が足りない
といったケースで用いられることになります。
換価分割の流れ
ここでは、不動産を換価分割する際の流れをご説明します。
まずは遺産分割協議を行い、「換価分割である旨」「換価代金の取得割合」等を明記した遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議が終わったら、続いて以下のいずれかの方法により相続登記を行います。
① 換価代金の取得割合に応じて共有名義で相続登記
② 売却手続きの便宜上、相続人のうち代表者1人の単独名義で相続登記
その後、無事に売却手続きが済んだら、現金を各相続人に分配します。
なお、②の方法により相続登記を行った場合、代表者1名から他の共同相続人へ現金を分配する際に贈与税がかかるのではないかと心配される方がいます。
しかし、単独名義で登記したのがあくまで売却手続きの便宜上の理由であり、その後の現金の分配が遺産分割協議書に記載された換価代金の取得割合どおりに行われている限りは、贈与税が課税されることはありません。
相続税の計算
換価分割により相続財産を売却した後の現金を各相続人に分配する場合でも、相続税はあくまで売却前の相続財産をベースに計算します。
つまり、被相続人が所有していた財産を相続税評価額で評価して相続税の総額を計算し、これを換価代金の取得割合に応じて各相続人が負担するイメージです。
譲渡税の計算
換価分割の対象となる相続財産を売却した後は、譲渡所得の申告が必要となります。
譲渡所得の申告は、換価分割により換価代金を取得する相続人全員が、売却代金等の総額を換価代金の取得割合で按分して行うことになります。
代償分割とは
概要
代償分割とは、遺産をある特定の相続人が現物で取得し、現物を取得した相続人から他の共同相続人に対して代償財産を交付する遺産分割方法です。
主に、
- 遺産の大半が自宅の土地建物であり同居していた子どもが相続して住み続けたい
- 遺産の大半が事業用資産(事業用不動産や自社株式)であり後継者が全て相続したい
といったケースで用いられることになります。
代償分割の流れ
交付する代償財産は現金に限りませんが、ここでは現金(代償金)を交付する前提でご説明します。
まずは遺産分割協議を行い、「代償分割である旨」「支払う代償金の額」等を明記した遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議が終わったら、続いて不動産や自社株式など代償分割の対象となる現物財産の名義変更を行うとともに、現物財産を取得した相続人から他の共同相続人へ代償金の支払いを行います。
なお、支払う代償金の出所は、
- 相続した現金
- 相続した不動産等を売却して得た現金
- 相続人が元々持っていた現金
- 相続人が元々持っていた不動産等を売却して得た現金
のいずれでも構いません。
また、代償金の支払はあくまで遺産分割の一部ですので、遺産分割協議書に記載されたとおりに代償金が支払われる限りは、代償金を受取った相続人に贈与税が課税されることはありません(一部例外あり)。
相続税の計算
代償分割が行われた場合には、各相続人がそれぞれ以下の財産を取得したものとして相続税を計算します。
- 代償金を支払った相続人 … 相続した現物財産の評価額 △ 支払った代償金の額
- 代償金を受取った相続人 … 相続した現物財産の評価額 + 受取った代償金の額
譲渡税の計算
もし代償分割により相続した現物財産を売却した場合には、譲渡所得の申告が必要となります。
なお、譲渡所得の申告は、相続した現物財産を売却した相続人だけが行うことになります。
相続した現物財産を売却せずそのまま所有している場合には、当然ながら譲渡税は関係しません。
不動産を売却する場合、換価分割と代償分割どちらが有利か
どちらの方法でも可能
相続した不動産を売却し現金として分ける場合、「換価分割」により売却代金を分けることもできますし、「代償分割」により不動産を取得した相続人がその不動産を売却して、売却代金の中から他の相続人に代償金を渡すこともできます。
以下の事例をご覧ください。
~前提条件~
- 母が死亡、相続人は子Aと子Bの2人
- 遺産は母の自宅マンションのみ(相続税評価額3,000万円のため相続税はかからない)
- 自宅マンションを4,000万円で売却、売却代金は子ども2人で均等に分けたい
- 自宅マンションは10年前に母が父から相続、取得費は2,000万円(譲渡費用はゼロ)
① 換価分割による場合
<遺産分割協議書>
自宅マンションの売却代金を子Aと子Bが各2分の1の割合で取得
<譲渡税>
- 子A … ( 2,000万円 - 1,000万円 )× 20.315% = 2,031,500円
- 子B … ( 2,000万円 - 1,000万円 )× 20.315% = 2,031,500円
<手残り額>
- 子A … 20,000,000円 - 2,031,500円 = 17,968,500円
- 子B … 20,000,000円 - 2,031,500円 = 17,968,500円
② 代償分割による場合
<遺産分割協議書>
自宅マンションは子Aが相続し、子Bに代償金17,968,500円を支払う
<譲渡税>
- 子A … ( 4,000万円 - 2,000万円 )× 20.315% = 4,063,000円
- 子B … なし
<手残り額>
- 子A … 40,000,000円 - 4,063,000円 - 17,968,500円 = 17,968,500円
- 子B … 17,968,500円
上記の②代償分割パターンでは、税引後の手取り額が平等になるように代償金の額を設定しています。
結果的に、①換価分割・②代償分割いずれの場合でも最終的な手取り額は全く同じとなります。
有利選択が必要になる場合も
しかしながら、実務では上記の事例のようなシンプルなケースばかりではありません。
「換価分割」と「代償分割」のどちらを採用するかによって税引後の手取り額に差が生じるケースもあるため、シミュレーションを行ったうえでいずれか有利な方法を選択することになります。
代表的なのは、共同相続人のうち誰か一人だけが譲渡所得の特例を使えるケースです。
たとえば、上記の例で子Aが母と同居していたとすると、譲渡所得の計算上、子Aだけが居住用財産の3,000万円控除の特例を使うことができます。
この場合、「換価分割」によると譲渡所得の特例を使えない子Bにだけ譲渡税がかかってしまいますが、「代償分割」により子Aだけが譲渡所得の申告をすれば特例により譲渡税はかからず、結果的に手取り額が増えることになります。
また、税引後の手取り額だけでなく、売却した翌年の社会保険料を考慮する必要もあります。
もし子Aがサラリーマンで子Bが自営業だった場合、子Aは勤務先の社会保険に加入しているため譲渡所得が翌年の健康保険料に影響することはありませんが、子Bは国民健康保険のため譲渡所得の影響により翌年の国民健康保険料が跳ね上がる可能性があります。
このようなケースでは、「代償分割」により子Aだけが譲渡所得の申告をすれば、子Bの国民健康保険料の負担増を避けることができます。
まとめ
上記のほか、相続税額の取得費加算(支払った相続税の一部を譲渡所得の経費にできる特例)や小規模宅地等の評価減(一定の条件を満たす宅地について相続税計算上の評価額を減額できる特例)の影響なども考慮する必要があります。
いずれか有利な方法を選択するとはいっても、相続税、譲渡税(所得税・住民税)、社会保険料などの要素を総合的に考えなければ判断できないため、なかなか一筋縄ではいきません。
もしご自身で判断がつかない場合には、専門家にシミュレーションを依頼して助言をもらうことをお勧めいたします。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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