被相続人の準確定申告の注意点まとめ①。事業所得・不動産所得編

こんにちは。税理士の関田です。

確定申告の必要な方が年の途中で亡くなった場合に、その相続人が、被相続人の1月1日~相続開始日までの所得を計算し、亡くなってから4ヵ月以内に申告・納税を行う「準確定申告」。

今回から全5回にわたり、準確定申告における注意点・ポイントについて「所得計算~税額計算~申告・納税」までの流れに沿って解説していきます。

まず今回は、所得計算のうち特に論点の多い「事業所得」「不動産所得」についてです。

収入金額に関する留意点

事業所得の場合

準確定申告における事業所得の収入金額には、亡くなった日までに「収入すべき権利の確定した金額」を計上しなければなりません。

たとえば、卸売業や小売業など商品を販売する事業者であれば「商品を引き渡した日」に、サービス業であれば「サービスの提供を完了した日」に売上を認識します。

したがって、もし生前に代金を受領していなかったとしても、相続開始日までに引渡しやサービス提供が終わっているものについては被相続人の売上として計上する必要があります。

不動産所得の場合

複式簿記による記帳を行っていない場合

不動産所得の収入計上時期は、原則として「賃貸借契約書に定められた賃料の支払日」です。

したがって、準確定申告の場合には、亡くなった日までに支払期日の到来した分までを収入計上することになります。

たとえば、5月7日に相続が発生したとして、契約書上の賃料支払時期が『毎月末日までに翌月分を支払う』と定められている場合には、4月30日に支払期日の到来した5月分の賃料までを被相続人の収入として計上しなければなりません。

滞納中で実際には受け取っていない場合でも、支払日が到来している賃料は全て収入計上する必要がありますのでご注意ください。

複式簿記による記帳を行っている場合

ただし例外として、複式簿記による帳簿を付けており(「貸借対照表」と「損益計算書」を両方作成)、継続的に前受・未収の経理を行っている場合には、貸付期間に対応する賃料を収入計上することが認められています。

つまり、準確定申告では「1月1日~亡くなった日」までの賃料を日割計算して収入計上することになります。

もちろんこの場合でも、実際に賃料を受け取っているかどうかは収入金額には影響を与えません。

賃料の日割計算は本当に必要か?

上記の通り、複式簿記による記帳を行っている場合の準確定申告では、亡くなった日までの賃料を日割計算して収入計上するのが原則です。

ただし、ここからはあくまで私見ですが、実際にきちんと日割計算を行って申告されているケースは意外と少ないのではないでしょうか。

実務上は、亡くなった日が月の下旬であれば死亡月の賃料はすべて被相続人の収入として計上し、亡くなった日が月の上旬であれば死亡月の賃料はすべて相続人の収入として計上してしまうケースが多いと思われます。

決して正しい処理ではないものの、被相続人か相続人のいずれかできちんと収入計上してあれば、税務署から指摘される心配はそれほどないでしょう(しつこいですが、あくまで私見です)。

必要経費に関する留意点

必要経費については、事業所得・不動産所得ともに基本的な考え方は同じです。

重要なポイントに絞って解説していきます。

租税公課

固定資産税の取扱い

準確定申告における固定資産税の取扱いはまず、亡くなった日までにその年の納税通知書が交付されているかどうかがポイントとなります。

相続開始日においてまだ納税通知書が交付されていない場合には、その年の固定資産税は準確定申告では一切経費になりません(全額が相続人の経費)。

では、納税通知書が届いた後に亡くなった場合はどうかというと、次の3つのうちいずれかを選択することが可能です。

  1. 全額を被相続人の経費として計上
  2. 相続開始日において納期の開始日が到来した分までを被相続人の経費として計上(残りは相続人の経費)
  3. 相続開始日において実際に納付が済んでいる分までを被相続人の経費として計上(残りは相続人の経費)

上記の取扱いは準確定申告だけでなく、固定資産税の必要経費算入時期に関する基本的な考え方に基づくものです。

⇒ 過去ブログ 『固定資産税を経費計上する時期。法人・個人それぞれの場合を解説』

なお、被相続人と相続人では税率が異なるケースが多く、どちらの経費にするかにより税負担に大きな差が生じる場合もありますので、安易な選択は避けたいところです。

事業税の取扱い

個人事業税は前年の所得に対して課税されるものですので、準確定申告の場合には、亡くなった年分とその前年分の事業税の取扱いが論点となるところです。

まず、事業税については原則、賦課決定の通知が届いた時点で必要経費に算入されます。

したがって、相続開始日において既に前年分の事業税の通知書が届いている場合には、前年分の事業税は被相続人の経費となります(亡くなった年分の事業税の通知書は当然ながら生前に届くことはありません)。

問題は相続開始時点で通知書が届いていないケースですが、この場合は相続人が事業を承継するか否かにより取扱いが異なります。

  1. 相続人が事業を承継しない場合 → 被相続人の経費
  2. 相続人が事業を承継する場合 → 相続人の経費

なお、相続人が事業を承継せず廃業となったケース(a)では、亡くなった後準確定申告書の提出時までに事業税の通知書が到達している場合には準確定申告において必要経費に算入できますが、準確定申告書を提出した後に通知書が到達した場合には、通知があった日の翌日から2ヵ月以内に更正の請求をすることができます。

ただし、亡くなった年分の事業税については特例として、通知書到達前であっても課税見込額を準確定申告において経費に計上することが認められています(所得税基本通達37-7)。

減価償却費

通常の減価償却資産の取扱い

亡くなった年の減価償却費は月割計上が原則ですが、1月に満たない場合にはこれを1月として計算します。

たとえば、5月1日に相続が発生した場合、5月は1日しかありませんが1~5月までの5か月分の減価償却費を計上することになります。

なお、上記のケースで事業を承継した相続人は5月~12月までの8ヵ月分の減価償却費を計上できますので、結果として相続が発生した年は合計13か月分の減価償却費が計上可能となります。

一括償却資産の取扱い

では、3年間で均等償却を行う一括償却資産(10万円以上20万円未満)がある場合はどうでしょう。

被相続人が一括償却資産を有していた場合には、原則として、未償却残額を被相続人の準確定申告において全額必要経費に算入します。

ただし、相続人が事業を承継する場合には、相続が発生した年については準確定申告において3分の1を、翌年以降は相続人の確定申告において3分の1ずつ経費にすることも認められています。

事業承継を行う場合には、固定資産税と同様、どちらの方法を選択した方が税負担がより少なくなるか検討する必要があるでしょう。

繰延消費税額等の取扱い

減価償却費とは少し異なりますが、繰延消費税額等(資産に係る控除対象外消費税額等)の取扱いについても触れておきます。

繰延消費税額等の償却期間中に相続が発生した場合には、未償却残額を被相続人の準確定申告において全額必要経費に算入するのが原則です。

ただし、相続人が事業を承継する場合には、準確定申告では亡くなるまでの期間に対応する償却費を計上し、それ以降は相続人の確定申告において経費計上することも認められています。

青色事業専従者給与

個人事業主である被相続人に青色事業専従者がいた場合、亡くなった日までの給与については被相続人の準確定申告で経費になります。

なお、相続人が事業を承継した場合で、被相続人の専従者だった人に引き続き青色事業専従者給与を支給したいときは、一定の期間内に税務署へ届出書を提出する必要があります。

⇒ 過去ブログ 『相続により事業を承継した場合に提出すべき届出書まとめ。所得税編』

青色申告特別控除額は?

準確定申告であっても、青色申告特別控除(65万円または10万円)は通常どおり受けることができます。

ただし、65万円控除は期限内申告が要件とされていますので、亡くなった日の翌日から4ヵ月以内に準確定申告書を提出しなければ10万円までしか控除を受けることはできません。

赤字の場合は純損失の繰戻し還付を検討

亡くなった年の不動産所得や事業所得が赤字になった場合で、その年の他の所得と損益通算してもまだ赤字が残る(純損失が生じる)ときは、赤字を翌年以降に繰り越すことができませんので、赤字を前年に繰り戻すことができるかどうか検討する必要があります(青色申告の場合のみ)。

もし前年に青色申告書を提出しており所得税を納めている場合には、亡くなった年の純損失と前年の所得を相殺することにより、前年分の所得税を還付してもらうことができます(純損失の繰戻し還付)。

なお、純損失の繰戻し還付を受けるためには、準確定申告の提出期限までに、準確定申告書とともに還付請求書を提出しなければなりません。

⇒ 国税庁HP 『純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続』


※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。

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