アパート建替時の除却損・解体費用の税務。全額経費にできない場合も
ポイント:解体費用は全額が不動産所得の必要経費に。除却損については事業的規模であれば全額が経費になるが、業務的規模の場合は除却損計上前の不動産所得の金額が限度。
こんにちは。税理士の関田です。
不動産賃貸業を営む個人がアパート・マンションの建替えのために古い建物を取り壊した場合、2種類の経費が発生することになります。
1つは建物の解体費用で、これはお金が出ていく経費。
もう1つは建物の固定資産除却損(帳簿価額=未償却残高)で、これは減価償却費と同じくお金が出ていかない経費。
ただし、不動産賃貸業の規模によっては全額を不動産所得の必要経費にできないケースもあるため注意が必要です。
目次
固定資産除却損(資産損失)の取扱い
資産損失とは
賃貸アパート・マンションについては、その建築代金や購入代金を「建物」として資産に計上し、耐用年数に応じて毎年減価償却していきます。
しかし、まだ減価償却が終わっていない建物を取り壊す場合には、取壊し時点での未償却残高(帳簿価額)を固定資産除却損として一括経費にすることが可能です。
所得税法上は、これを「資産損失」といいます。
資産損失の所得税法上の取扱い
ただし、所得税法第51条では、「資産損失の必要経費算入」について以下のように規定しています。
所得税法第51条(資産損失の必要経費算入)
1 居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものについて、取りこわし、除却、滅失(…中略…)により生じた損失の金額(…中略…)は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
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4 居住者の不動産所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産(…中略…)の損失の金額(…中略…)は、それぞれ、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額(この項の規定を適用しないで計算したこれらの所得の金額とする。)を限度として、当該年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
要約すると、1項の規定では「不動産所得を生ずべき事業の用に供されている資産の取壊しにより生じた損失は、その損失が生じた年分の必要経費に算入する」としているところ、4項の規定では「不動産所得を生ずべき業務の用に供されている資産の損失は、その損失を計上する前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入する」としています。
事業的規模以外の場合は全額経費にできないケースも
つまり、「業務の用」に供されている資産の損失を計上すると不動産所得が赤字になってしまう場合には、その赤字は切り捨てになるということです。
なお、「事業の用」と「業務の用」の違いは、不動産の貸付規模が「事業的規模」か「事業的規模以外(業務的規模)」かどうかの違いですので、いわゆる”5棟10室基準”を満たしている場合には全額を必要経費にできるものの、満たしていない場合には全額を必要経費にできないケースも出てきます。
- 事業的規模 → 全額を経費計上できる(赤字になる場合は他の所得との損益通算など可)
- 事業的規模以外 → 経費計上前の不動産所得を限度として経費計上(赤字にできない)
解体費用の取扱い
解体費用は資産損失ではない
一方、建替えに伴い支払った解体費用はどうでしょう。
資産損失と混同されやすいところですが、解体費用はあくまで資産損失が生じたことに伴い発生する関連費用ですので、所得税法第51条の規定は適用されません。
建替えに伴う解体費用は全額経費にできる
つまり、建替えに伴う解体費用については、不動産の貸付規模に関わらず、その全額が不動産所得の必要経費になるということです。
解体費用の計上により不動産所得が赤字になる場合、たとえ”5棟10室基準”を満たしていなくても、他の所得と損益通算したり、損失を翌年以降に繰り越す(青色申告の場合のみ)ことが可能です。
具体例
最後に、具体例を示しておきます。
<前提条件>
- 解体費用、資産損失計上前の不動産所得:500万円
- 建替えに伴う解体費用の金額:300万円
- 取り壊した建物の未償却残高(帳簿価額):400万円
事業的規模の場合
<不動産所得>
500万円 - 300万円 - 400万円 = △200万円
→ 赤字については他の所得との損益通算、損失繰越(青色申告の場合)可
事業的規模以外の場合
<不動産所得>
500万円 - 300万円 - 200万円※ = 0円
※ 400万円 > 500万円-300万円=200万円 ∴ 200万円(経費にできる資産損失)
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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