簡易課税選択・課税事業者選択。消費税の届出を忘れた場合の対処法
ポイント:消費税の届出書を期限内に提出し忘れた場合には、課税期間を短縮することで対処可能な場合も。法人の場合には決算期を変更するという方法もある。
こんにちは。税理士の関田です。
数ある税務上の届出書の中でも、消費税に関する届出書についてはとりわけ提出期限に注意を要します。
「簡易課税」を選択する場合など、重要な届出書の多くは課税期間が始まる前に提出する必要がありますが、万が一提出を忘れたとしても諦めるのはまだ早いです。
消費税の届出書を提出し忘れた場合の「2つの対処法」について解説します。
目次
課税期間が始まる前までに提出しなければならない届出書
消費税の新たな課税期間が始まる日の前日までに提出しなければならない代表的な届出書としては、以下の届出書が挙げられます。
消費税簡易課税制度選択届出書
基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円以下の課税事業者で、「原則課税」よりも「簡易課税」によって計算した方が消費税の納税額が安く済む場合などに提出する届出書です。
消費税簡易課税制度選択不適用届出書
「簡易課税」を選択していたものの、設備投資を行う等の理由から「原則課税」に戻した方が消費税の納税額が安く済む場合などに提出する届出書です。
ただし、「簡易課税」を選択した場合には2年間は強制適用されますので、それ以降でなければ「原則課税」に戻すことはできません。
消費税課税事業者選択届出書
本来は「免税事業者」であるものの、設備投資を行う等の理由から「課税事業者」になって消費税の還付を受けたい場合などに提出する届出書です。
消費税課税事業者選択不適用届出書
「課税事業者」を選択していたものの、消費税の還付を受け終わった等の理由から「免税事業者」に戻ろうとする場合などに提出する届出書です。
ただし、「課税事業者」を選択した場合には原則として2年間は強制適用されますので、それ以降でなければ「免税事業者」に戻ることはできません。
また、もし2年間の強制適用期間中に”調整対象固定資産”を取得した場合には、取得した日の属する課税期間から3年間は強制的に「課税事業者」となりますので、それ以降でなければ「免税事業者」に戻ることはできません。
届出書の提出を忘れた場合の対処法・その①。課税期間を短縮する
『消費税課税期間特例選択・変更届出書』を提出
消費税を計算する期間(課税期間)は原則として「1年ごと」ですが、特例によりこれを「3ヵ月ごと」や「1ヵ月ごと」に短縮することが可能です。
そこで、もし課税期間が始まる日の前日までに提出すべき届出書を出し忘れていた場合には、課税期間を「3ヵ月ごと」や「1ヵ月ごと」に区切ることで新たな課税期間をスタートさせ、その前日までに届出書を提出しておくという対処法があります。
なお、この課税期間短縮の特例を選択した場合には、2年間は強制適用されます。
2年経過後に課税期間を「1年ごと」に戻したい場合には、戻したい課税期間が始まる日の前日までに不適用の届出書を提出する必要があります。
3ヵ月ごとに短縮する場合の具体例
- 3月決算法人
- X1年4月1日~X2年3月31日の課税売上高は800万円
- X3年7月に設備投資を行うため消費税の還付を受けたいが、X3年3月31日までに『消費税課税事業者選択届出書』の提出をしていなかったため、X3年4月1日~X4年3月31日は「免税事業者」となり還付を受けられない
<対処法>
① X3年6月30日までに『消費税課税期間特例選択・変更届出書』を提出して課税期間を「3ヵ月ごと」に短縮
・・・ 7月1日より新たな課税期間がスタート
② X3年6月30日までに『消費税課税事業者選択届出書』を提出
・・・ 7月1日より消費税の課税事業者となる
→ X3年7月1日~X3年9月30日までの課税期間で消費税の還付を受けることが可能
1ヵ月ごとに短縮する場合の具体例
- 個人事業主
- X1年1月1日~X1年12月31日の課税売上高は2,500万円
- X3年1月1日~X3年12月31日までの課税期間は「簡易課税」を選択したほうが有利になるはずだが、X2年12月31日までに『消費税簡易課税制度選択届出書』の提出をしておらず、X3年1月になってから提出漏れに気づいた
<対処法>
① X3年1月31日までに『消費税課税期間特例選択・変更届出書』を提出して課税期間を「1ヵ月ごと」に短縮
・・・ 2月1日より新たな課税期間がスタート
② X3年1月31日までに『消費税簡易課税制度選択届出書』を提出
・・・ 2月1日より「簡易課税」が適用される
→ X3年2月1日~X3年2月28日までの課税期間から「簡易課税」での申告が可能
届出書の提出を忘れた場合の対処法・その②。決算期を変更する
上記のように課税期間を短縮した場合、最低でも2年間は「3ヶ月ごと」「1ヵ月ごと」の申告を続けなければなりません。
「3ヵ月ごと」や「簡易課税」ならまだしも、「1ヵ月ごと」に「原則課税」での申告ともなれば実務的にはかなり大変な作業です。
そこで、法人の場合にはもう一つ、決算期を変更してしまうという方法があります。
届出書の効力を生じさせたい月の前月末で決算を区切ることで、翌月から新たな事業年度が始まるとともに、消費税の課税期間も新たにスタートすることになります。
この方法であれば、「3ヶ月ごと」や「1ヵ月ごと」の煩わしい申告業務から逃れることができますので、決算期を変更することに抵抗がない場合にはお勧めの方法です。
決算期の変更手続については以下の記事をご参照ください。
⇒ 過去ブログ 『会社の決算期の選び方・その②。決算期の変更の方法』
まとめ
消費税の届出書の出し忘れは、税額的にも作業量的にも非常に大きなダメージを受けます。
年度末が近づいてきたら、当期の決算予測とともに、必ず翌期の消費税の納税義務・課税方法について確認することが重要です。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております
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