調整対象固定資産と高額特定資産の違い。消費税還付スキームの変遷

ポイント:事業用物件の取得による消費税還付はまだまだ可能。居住用物件の取得による消費税還付は「課税売上割合」のコントロールが鍵。


こんにちは、川越市の税理士・関田です。

昨今の不動産価格の上昇により投資物件の利回りが非常に低くなっている現在、少しでも手残りを増やそうと消費税の還付を検討される方が多くいらっしゃいます。

しかし、度重なる税制改正により消費税還付はかなり難しくなってきているのが実情です。

今回は、消費税還付のキーポイントとなる『調整対象固定資産』『高額特定資産』の意味について改めて整理するとともに、消費税還付スキームの変遷についてまとめました。

調整対象固定資産とは?

まず、消費税還付について理解する上での最重要ワードである『調整対象固定資産』について整理してみます。

定義

『調整対象固定資産』とは、次のような資産のことをいいます。

建物及びその附属設備、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で、一の取引単位の価額が税抜100万円以上のもの

ただし、棚卸資産やそもそも消費税のかからない土地などは除かれます。

何を調整するのか?

さて、”調整対象”といいますが、いったい何を調整するのでしょうか?

消費税の納税(還付)額は、仮受消費税(預かった消費税)から仮払消費税(支払った消費税)を控除して計算します。

仮受消費税(預かった消費税) - 仮払消費税(支払った消費税) = 納付(還付)消費税

しかし、不動産業などのように課税売上(消費税のかかる売上)と非課税売上(消費税のかからない売上)が混在する業種の場合、仮払消費税のうち課税売上割合(全売上に占める課税売上の割合)に対応する金額しか控除できないケースがあります。

つまり、「課税売上割合」によって消費税の納税(還付)額が大きく変わるわけですが、年度によって課税売上割合に著しい変動がある場合、固定資産を取得したある一時点(年度)の課税売上割合によって控除税額を決めるのは課税上問題があることから、一定額以上の固定資産(調整対象固定資産)を取得した場合には、

取得から3年間の「通算の課税売上割合」が「取得時の課税売上割合」よりも

  • 著しく減少している場合 → 取得時に控除した税額の一部を3年目に返納
  • 著しく増加している場合 → 取得時に控除できなかった税額の一部を3年目に控除

することになっています。

これがいわゆる『3年目の調整計算』です。

なお、この調整計算は、取得時の消費税の申告で「比例配分法」という計算方法を使った場合のみ行うこととされています(詳細は下記HPをご参照ください)。

⇒ 国税庁HP 『課税売上割合が著しく変動したときの調整』

従来の消費税還付スキームと税制改正①

自販機スキーム

上記の調整計算があることで、たまたま課税売上割合の高い年度に調整対象固定資産を取得したため消費税が還付になった場合でも、その後3年間の通算課税割合が著しく減少していれば還付された消費税を3年目に国へ返納することになるはずでした。

しかし、この『3年目の調整計算』は、3年目に「原則課税事業者」だった場合のみ適用されるものであり、もし3年目に「免税事業者」や「簡易課税事業者」だった場合には適用されません。

そこで、調整対象固定資産を取得した年度の課税売上割合を100%近くまで引き上げて消費税を還付し、その後すぐに「免税事業者」や「簡易課税事業者」になって『3年目の調整計算』を逃れるというスキームが横行しました。

たとえば、1年目の年度末ギリギリに居住用アパートを取得し、賃料(非課税売上)は発生させず敷地内の自動販売機収入(課税売上)のみを発生させ課税売上割合を100%にして消費税を全額還付してもらい、その後「免税事業者」や「簡易課税事業者」になるといったスキームです(いわゆる「自販機スキーム」)。

平成22年度税制改正

そこでこのようなスキームを阻止するため、下記の期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、取得後3年目までは強制的に「原則課税事業者」になることとされました(いわゆる『3年縛り』)。

  1. 課税事業者を選択してから2年間(強制適用期間)
  2. 資本金1,000万円以上で設立した法人の設立後2年間

このようなケースでは、3年目までに「免税事業者」や「簡易課税事業者」になることができないため、『3年目の調整計算』から逃れられないことになったわけですが…。

従来の消費税還付スキームと税制改正②・高額特定資産とは?

平成22年度改正の抜け穴

22年度改正によりそれまでの消費税還付スキームは封じられたように見えましたが、今思えば抜け穴だらけでした。

たとえば、

  • 基準期間(2年前)の課税売上が1,000万円超のためそもそも課税事業者の場合
  • 特定期間(前年の上半期)の課税売上又は給与支払額が1,000万円超のため課税事業者となる場合
  • 課税事業者を選択した後2年間(強制適用期間)を経過してから取得した場合
  • 資本金1,000万円以上の法人を設立した後2年間を経過してから取得した場合
  • 高額な棚卸資産を取得した場合

などは『3年縛り』を受けることなく、取得した年の翌年から「免税事業者」や「簡易課税事業者」になることが可能だったわけです。

平成28年度税制改正

そこで国税側は、「原則課税事業者」の期間中に『高額特定資産』を取得したときは、いかなる場合でも取得後3年間は「免税事業者」や「簡易課税事業者」になることができないこととしました(『3年縛り』の強制)。

この結果、居住用アパートの取得に伴い消費税還付を行ったとしても、アパート収入はほとんどが「非課税売上」のため3年間の「通算課税売上割合」が著しく減少することから、『3年目の調整計算』により還付消費税の大半を国に返納せざるを得なくなりました。

高額特定資産とは?

『高額特定資産』とは、次のような資産のことをいいます。

一の取引単位の価額が税抜1,000万円以上棚卸資産又は調整対象固定資産

『高額特定資産』と『調整対象固定資産』は混同しやすいところですが、ポイントは、

  • 『高額特定資産』は1,000万円以上、『調整対象固定資産』は100万円以上
  • 『高額特定資産』は棚卸資産も含む(不動産業者の販売用不動産など)

という点です。

今後の消費税還付のポイント

28年度改正により消費税還付の難易度は一気に上昇しましたが、それでも「やり方」次第ではまだまだ可能なケースもあります。

事業用物件の場合

テナントビルなどの事業用物件の場合には、これまでどおり消費税を還付できる可能性が高いです。

これは、事業用物件の場合、

  • 還付申告時に「比例配分法」を使わないケースが多く、この場合には『3年目の調整計算』が不要である
  • 還付申告時に「比例配分法」を使ったとしても、収入がすべて「課税売上」のため課税売上割合に著しい変動がなく『3年目の調整計算』が行われない

ためです。

ただし、『3年縛り』によりすぐに「免税事業者」や「簡易課税事業者」になることができないことから、還付年の翌年・翌々年の納税額は従来よりも増加するためトータルの手残りは従来よりも若干減少する結果となります。

居住用物件の場合

アパートなどの居住用物件の場合には、還付申告時に「比例配分法」を使用しますので、必ず『3年目の調整計算』の対象となります。

したがって、通算課税売上割合が著しく減少して還付消費税の大半を返納する羽目にならないよう、「いかに課税売上割合を3年間高くキープできるか」が重要となります。

まとめ

度重なる税制改正により、居住用物件での消費税還付のポイントは

「いかにして3年縛りから逃れるか」 → 「いかにして課税売上割合をキープするか」

に変化しました。

消費税還付については税務署の目も年々厳しくなっており、「不正還付」による摘発事例も後を絶ちませんので、実行する際には専門家のアドバイスを受け、くれぐれも慎重に行う必要があります。


※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。

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