相続により事業を承継した場合に提出すべき届出書まとめ。所得税編
ポイント:青色申告承認申請書の提出期限は「被相続人が青色申告をしていたか」、「相続人が以前から事業を営んでいたか」によって異なるため要注意。
こんにちは。税理士の関田です。
個人が新たに事業を始める際、開業届や青色申告承認申請書などの各種届出書を税務署へ提出することになりますが、これは先代経営者が亡くなり相続人が事業を引き継いだ場合も同様です。
ただし、相続に伴う事業承継の場合には届出書の提出期限が従来と異なるケースもあるため注意が必要になります。
相続により事業を承継した場合に相続人が提出すべき書類について、「所得税」に関する届出書と「消費税」に関する届出書に分けてご説明します。
今回は「所得税」に関する届出書について。
被相続人の死亡に伴う所得税の届出書
まず、先代経営者である被相続人の死亡に伴い、以下の届出書を税務署へ提出します。
なお、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」という書類が存在しますが、死亡による廃業の場合には提出不要です。
個人事業の開業・廃業等届出書
事業を廃止した旨の届出書です。
提出期限は、亡くなった日から1ヵ月以内となります。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
従業員(専従者を含む)を雇って給与を支払っていた場合に提出する届出書です。
提出期限は、亡くなった日から1ヵ月以内となります。
なお、上記の「廃業届出書」を提出する場合にはこちらの届出書の提出は不要となっていますので、実務上は提出しないケースが多いと思われます。
⇒ 国税庁HP 『給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出』
相続人の事業承継に伴う所得税の届出書
続いて、相続人の事業承継に伴い、以下の届出書を税務署へ提出します。
個人事業の開業・廃業等届出書
相続により事業を開始した場合に提出する届出書です(以前から別の事業を営んでいる場合には提出不要)。
提出期限は、亡くなった日から1ヵ月以内となります。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
従業員を引き続き雇用し給与を支払う場合に提出する届出書です。
提出期限は、亡くなった日から1ヵ月以内となります。
なお、上記の「開業届出書」に給与の支払状況を記載している場合にはこちらの届出書の提出は不要ですが、実務上は税務署から提出を求められるケースもあるので、念のため提出しておきましょう。
⇒ 国税庁HP 『給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出』
また、給与にかかる源泉所得税の納付について納期の特例(毎月納付を半年ごと納付にできる特例)を受けたい場合には、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を同時に提出します。
⇒ 国税庁HP 『源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請』
所得税の青色申告承認申請書
青色申告を行いたい場合に提出する届出書です。
相続人が以前から別の事業を営んでおり既に青色申告を行っている場合には改めて提出する必要はありませんが、それ以外の場合には、被相続人・相続人の状況によって以下の通り提出期限が定められています。
被相続人:青色申告 / 相続人:以前から事業を営んでいた場合(白色申告)
提出期限は、亡くなった年の3月15日です。
自ら白色申告を選んでいたわけですから、相続に関係なく原則通りの取扱いになります。
被相続人:青色申告 / 相続人:事業を営んでいなかった場合
この場合、被相続人が亡くなった日によって提出期限が異なるため注意が必要です。
- 1月1日から8月31日までに亡くなった場合 … 亡くなった日から4ヵ月以内
- 9月1日から10月31日までに亡くなった場合 … 亡くなった年の12月31日まで
- 11月1日から12月31日までに亡くなった場合 … 亡くなった年の翌年2月15日まで
被相続人:白色申告 / 相続人:以前から事業を営んでいた場合(白色申告)
提出期限は、亡くなった年の3月15日です。
自ら白色申告を選んでいたわけですから、相続に関係なく原則通りの取扱いになります。
被相続人:白色申告 / 相続人:事業を営んでいなかった場合
この場合、被相続人が亡くなった日によって提出期限が異なるため注意が必要です。
- 1月1日から1月15日までに亡くなった場合 … 亡くなった年の3月15日まで
- 1月16日以降に亡くなった場合 … 亡くなった日から2ヵ月以内
青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
青色事業専従者給与を支給したい場合に提出する届出書です。
以前から青色事業専従者だった人について、事業承継後も引き続き青色事業専従者として給与を支給したい場合の提出期限は以下のとおりです。
- 1月1日から1月15日までに亡くなった場合 … 亡くなった年の3月15日まで
- 1月16日以降に亡くなった場合 … 亡くなった日から2ヵ月以内
遺産分割が終わっていない場合はどうすべきか?
開業届については提出期限を多少過ぎても実害はありませんが、青色申告承認申請書は期限内の提出が必須です(なお、白色申告は今やほとんどメリットがありません)。
しかし、遺言書がなく遺産分割協議に時間がかかるようなケースでは、誰が事業を承継するか(誰が事業用財産を相続するか)が申請書の提出期限までに決まらないこともあるはずです。
このような場合には、とりあえず相続人全員が青色申告承認申請書を提出しておいた方がいいでしょう。
たとえば、「長男が事業を承継する見込になり長男だけが申請書を出していたが、最終的には次男が承継することになった」というようなケースでは次男は白色申告になってしまいますが、とりあえず全員が提出しておけばこういったケースにも対応できます。
また、遺産分割協議がまとまらない場合には相続後の収入を法定相続分で按分して各相続人が申告することになりますが、とりあえず全員が提出しておけば全員が青色申告をできることになります。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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