貸家の贈与と敷金の引継ぎ。負担付贈与とみなされないためには?
ポイント:預り敷金のある賃貸アパートをそのまま贈与すると「負担付贈与」扱いとなり高い贈与税が課税される。敷金相当額の現金も同時に贈与すれば通常の贈与扱いに。
こんにちは。税理士の関田です。
不動産を贈与する場合、土地については路線価など、建物については固定資産税評価額をベースに算出した「相続税評価額」を基に贈与税を計算します。
しかし、たとえば借金付きの不動産を贈与する場合のように、もらう側に一定の債務を負担させる贈与(「負担付贈与」といいます。)を行うと、「相続税評価額」よりも高い評価額により贈与税が計算されるだけではなく、贈与した側に所得税が課税される恐れがあります。
負担付贈与を行った場合の税務上の取扱い、注意点についてまとめました。
目次
負担付贈与とは?
負担付贈与とは、贈与者(あげる側)が受贈者(もらう側)に一定の債務を負担してもらうことを条件に行う財産の贈与をいいます。
イメージしやすいのは、金融機関からのローンで購入又は建築した賃貸アパートをローン付きのまま贈与するようなケースです。
負担付贈与の税務上の取扱い
受贈者側に対する課税
負担付贈与の場合、もらった側にとっては「贈与財産の価額」から「負担額」を除いた金額が実質的な経済的利益になりますので、贈与税の計算式は、
( 贈与財産の価額 - 負担額 - 基礎控除110万円 )× 贈与税率
となります。
ここで、贈与したのが不動産以外の財産であれば「贈与財産の価額=相続税評価額」で問題ありません。
しかし、贈与財産が土地や建物などの不動産の場合には「相続税評価額」を使うことはできず、「通常の取引価額(時価)」を基に贈与税を計算しなければなりません。
<具体例>
- 残債が1,500万円ある不動産をローン付きのまま子どもへ贈与
- 不動産の相続税評価額は2,000万円、通常の取引価額(時価)は2,500万円
~贈与税~
× ( 2,000万円 - 1,500万円 - 110万円 )× 15% - 10万円 = 48.5万円
○ ( 2,500万円 - 1,500万円 - 110万円 )× 30% - 90万円 = 177万円
贈与者側に対する課税
負担付贈与をした側にとっては、財産をあげた代わりに債務の負担が消滅したわけですから、実質的に「負担額」相当額で財産を譲渡したことと同じです。
したがって、「負担額」を売却代金とみなして譲渡所得税・住民税が課税されることになります。
<具体例>
- 上記の例で取得費が1,200万円だった場合(長期譲渡)
~譲渡所得税・住民税~
( 1,500万円 - 1,200万円 )× 20.315% = 609,400円
敷金を預かっている貸家を贈与した場合
単純に貸家を贈与しただけでは「負担付贈与」に該当してしまう
もし賃貸アパートなどの貸家を贈与しようとする場合、たとえローンの返済が終わっていたとしても注意が必要です。
というのも、入居者から敷金を預かっている場合、敷金返還債務は当然に贈与者から受贈者へ引き継がれることになり、受贈者側にとっては貸家をもらう代わりに敷金返還債務を負担する「負担付贈与」を受けたことになるからです。
敷金相当額の現金を贈与すれば「負担付贈与」を回避できる
このような場合、贈与者が預かっている敷金相当額の現金を同時に贈与して実質的に負担額をなくすことで、「負担付贈与」としての取扱いを回避することができます。
なお、「現金の贈与」と聞くとその現金に対しても贈与税がかかってしまうと思われるかもしれませんが、受贈者側は敷金返還債務の負担を免れただけであり経済的利益を受けているわけではない(「贈与」というよりは「精算」に近い)ので、贈与された現金にまで贈与税がかかることはありません。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
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