土地建物を一括購入した場合の取得価額の区分。合理的な按分方法とは
ポイント:土地代金と建物代金の内訳が不明な場合には、「固定資産税評価額による按分」「土地の時価から算出」「建物の時価から算出」など複数の手法を試してみる。
こんにちは。税理士の関田です。
土地と建物を一括で購入した場合、購入代金を「土地」と「建物」に振り分ける作業は非常に重要です。
建物代金には消費税がかかりますし、減価償却費として経費にすることもできるからです。
その際、売買契約書に土地代金と建物代金が明記されていれば良いのですが、「総額○○○円」といった契約の場合には何らかの方法で按分しなければなりません。
今回は、土地建物を一括購入した場合の取得価額の按分方法をご紹介します。
目次
まずは売買契約書の記載内容を確認
土地・建物売買契約書における売買代金の記載内容は、以下の3パターンに分類されます。
土地代金と建物代金が明記されている場合
売買契約書に土地代金「○○○円」建物代金「○○○円」と明記されている場合、基本的にはこれらの金額をそのまま土地・建物の取得価額とします。
明記された金額が時価の比率とあまりにもかけ離れている場合には再考の余地もありますが、明らかに不自然な金額でない限りは契約書に記載された金額を採用して問題ありません。
売買代金総額と消費税額が記載されている場合
売買契約書に売買代金「○○○円」うち消費税「○円」と記載されている場合には、消費税額に「108/8」を乗じて(消費税率10%の場合は「110/10」を乗じて)建物の税込取得価額を計算し、差額を土地の取得価額とします。
この方法により計算した金額が時価の比率から考えて明らかに不自然でない限りは問題ありません。
<具体例>
- 売買代金総額:8,000万円
- うち消費税:240万円(消費税率8%)
↓
①建物取得価額 : 240万円 × 108/8 = 3,240万円
②土地取得価額 : 8,000万円 - ① = 4,760万円
売買代金総額しか記載されていない場合
売買契約書に土地代金・建物代金の内訳はおろか、消費税額も記載されていない場合には、売買代金の総額を時価の比率で按分しなければなりません。
とはいっても、何をもって時価とするかは税法に書いてあるわけではなく、購入者が合理的と考える方法により按分計算するほかありません。
そこで次に、合理的と思われる取得価額の按分方法をいくつかご紹介します。
土地代金と建物代金の内訳が不明な場合の按分方法
ここでは、土地代金・建物代金の内訳が不明な場合の按分方法として代表的なものを4つご紹介します。
なお、買主側としては、
- 減価償却費を多く計上できる
- 消費税の仕入税額控除が多くなる(課税事業者の場合)
という理由から建物代金が高くなった方が有利になるわけですが、明らかに建物代金が高すぎるような場合には税務署から否認される恐れもありますので注意が必要です。
(1) 固定資産税評価額の比率で按分
土地と建物の「固定資産税評価額」の比率で按分する手法はとてもシンプルで、実務上は一番よく用いられます。
「固定資産税評価額」は固定資産税の課税明細書にも記載されていますが、購入した年度の課税明細は売主が所有していますので、売主に写しをもらうか、難しければ役所で評価証明書を取得しましょう。
<具体例>
- 売買代金総額:8,000万円
- 土地の固定資産税評価額:3,200万円
- 建物の固定資産税評価額:1,800万円
↓
①土地取得価額 : 8,000万円 × 3,200万円/5,000万円 = 5,120万円
②建物取得価額 : 8,000万円 × 1,800万円/5,000万円 = 2,880万円
なお、この手法の問題点は、建物の取得価額が低めに計算されてしまう傾向にあるということです。
建物の固定資産税評価額は新築の段階ですでに建築代金の4割~6割程度まで下がりますので、特に築浅の物件の場合には、この手法で計算すると建物の取得価額が低くなりがちです。
(2) まず土地の価額を決めてから差額を建物の価額にする
まず土地の時価を算出して土地の取得価額を決定し、差額を建物の取得価額とします。
土地の時価は公示価格などを参考にする場合もありますが、実務上よく使われるのは相続税の路線価を「0.8」で割り戻す手法です。
路線価は時価の80%程度に設定されている(はずです)ので、路線価を「0.8」で割り戻せばほぼ時価に近い金額になるというわけです。
<具体例>
- 売買代金総額:8,000万円
- 土地の面積:220㎡
- 路線価:15万円/㎡
↓
①土地取得価額 : 15万円 × 220㎡ ÷ 0.8 = 4,125万円
②建物取得価額 : 8,000万円 - ① = 3,875万円
なお、この手法の問題点は、土地の取引相場と路線価がかけ離れている地域の場合、土地の取得価額が低めに計算されてしまう(=建物の取得価額が高すぎる)ということです。
「路線価は時価の80%」という建前はありますが、特に都心の一等地などでは路線価の倍以上の価格で取引されるケースも珍しくありませんので、実態とかけ離れた取得価額になってしまう恐れがあります。
(3) まず建物の価額を決めてから差額を土地の価額にする
(2)とは逆に、まず建物の時価を算出して建物の取得価額を決定し、差額を土地の取得価額とします。
建物の時価としては、売主の帳簿価額を教えてもらえればそれを参考にするといった手法もありますが、実務上は税務署が公表している「建物の標準的な建築価額」を基に新築時の取得価額を計算し、そこから購入時までの減価償却費相当額を控除した金額を取得価額とする手法がよく用いられます。
<具体例>
- 購入年月:平成30年4月
- 売買代金総額:8,000万円
- 構造・用途:木造アパート
- 建築年月:平成18年3月(木造の標準的な建築価額:152,900円/㎡)
- 床面積:300㎡
↓
①建物取得価額
- 新築時取得価額 152,900円 × 300㎡ = 45,870,000円
- 減価償却費相当額 45,870,000円 × 0.9 × 0.046 × 12年 = 22,788,216円
- 中古取得価額 a - b = 23,081,784円
②土地取得価額
80,000,000円 - ① = 56,918,216円
(4) 不動産鑑定士に按分を依頼する
不動産鑑定士に依頼して土地・建物の取得価額を按分してもらうという方法もあります。
税務上は一番確実な方法ですが、鑑定士の費用がかかるのがネックです。
仲介手数料や固定資産税精算金はどのように按分すべきか?
実際の売買では、本体価格の他に不動産業者に対する仲介手数料や固定資産税の精算金も発生します。
これらの費用も土地建物の取得価額に算入するため、按分計算が必要となります。
仲介手数料
決定した土地の取得価額と建物の取得価額の比率で按分します。
固定資産税精算金
精算金の明細書等により土地部分と建物部分の内訳が明らかな場合には、土地建物それぞれの取得価額にそのまま加算すればOKです。
もし内訳が分からない場合には、仲介手数料と同様、土地の取得価額と建物の取得価額の比率で按分します。
まとめ
土地代金・建物代金の内訳が不明な場合には、上記のような手法の中からなるべく建物の比率が高くなる計算方法を用いると有利になります。
ただし、按分した土地建物の価額がバランス的に問題ないかどうかが非常に重要になりますので、例えば「路線価ベース」で計算した取得価額と「標準的建築価額ベース」で計算した取得価額をミックス(加重平均)するなど、複数の手法を加味すると税務的にはより安全といえます。
※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。
当事務所のサービスメニュー・料金について
初回のご面談は無料です(単発の税務相談・コンサルティングを除く)。
オンラインでのビデオ面談もお受けしております。