相続により事業を承継した相続人の消費税の納税義務。特定遺贈に注意

ポイント:相続人の消費税の納税義務の判定では、遺産分割協議が成立したタイミングに注意が必要。なお、特定遺贈の場合は相続人の基準期間における課税売上高のみで判定。


こんにちは、川越市の税理士・関田です。

先日、相続があった場合の消費税の届出書ついての記事を書きました。

⇒ 過去ブログ 『相続により事業を承継した場合に提出すべき届出書まとめ。消費税編』

各種届出書の提出期限についてケース別にまとめたのですが、届出書を提出する前に、そもそも消費税の納税義務があるのかどうかを判定しなければなりません(これが非常に厄介です)。

今回は、貸ビル業を行っていた不動産オーナーに相続が発生したケースを例に、相続人の消費税の納税義務の判定方法について解説します。

相続人の消費税の納税義務の基本的な考え方

事業を営んでいる個人に消費税の納税義務があるかどうかは、原則として基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超えるか否かにより判定します。

したがって、新たに個人事業を始める場合には、少なくとも2年目までは消費税の納税義務は免除されます。

⇒ 過去ブログ 『個人事業主の消費税の納税義務。開業1年目から3年目までの判定方法』

しかし、相続により事業を引き継いだ場合には、亡くなった被相続人の基準期間における課税売上高も考慮して納税義務を判定するため、開業1年目から消費税の納税義務が発生する可能性もあります。

具体的な判定方法の前提条件

以下、具体例を用いながら納税義務の判定方法を解説していきますが、まずは前提となる条件を頭に入れていただければと思います。

<被相続人・夫>

  • X3年9月30日死亡
  • 不動産賃貸業(テナントビル1棟所有)

<相続人>

  • 妻(無職)
  • 長男(個人事業主。課税売上高 … X1年:800万円、X2年:750万円、X3年:900万円)
  • 長女(会社員)

<テナントビルの課税売上高>

X1年:1,800万円、X2年:1,680万円、X3年:1,560万円

<遺産分割>

遺産分割協議により、テナントビルは妻が2/3・長男が1/3を共有で相続

相続が発生した年の納税義務の判定

判定に用いる課税売上高の範囲

相続が発生した年における相続人の消費税の納税義務は、基準期間における被相続人の課税売上高のみによって判定します。

基準期間における相続人自身の課税売上高を合算して判定することはありません(相続人が元々課税事業者の場合には、そもそも判定の必要なし)。

遺産分割状況による影響

相続が発生した年においては、

  • 年末までに遺産分割が済んでいる場合
  • 年末時点で遺産が未分割の場合

いずれの場合でも、基準期間における被相続人の課税売上高を各相続人の法定相続分で按分した金額により相続人の納税義務を判定してよいものとされています。

遺産分割が済んでいる場合でもこのような取扱いが認められるのは、消費税の納税義務を事前に予知できないと納税のための準備や簡易課税選択等の届出書の提出に影響が及ぶためです(年末ギリギリの遺産分割により納税義務が確定すると準備期間がほとんどない)。

具体例(X3年の納税義務)

前記の前提条件をもとに相続が発生した年(X3年)の納税義務の判定を行うと、以下のとおりとなります。

~相続が発生した年(X3年)の納税義務判定~

  • 妻 1,800万円 × 1/2 = 900万円 ≦ 1,000万円 ∴免税事業者
  • 長男 1,800万円 × 1/4 = 450万円 ≦ 1,000万円 ∴免税事業者
  • 長女 1,800万円 × 1/4 = 450万円 ≦ 1,000万円 ∴免税事業者

ちなみに、上記の判定の結果もし課税事業者に該当した場合でも、課税事業者になるのは相続が発生した日の翌日からとなります。

つまり、仮に長男が課税事業者に該当したとしても、長男自身のX3年の課税売上高(900万円)のうち消費税の申告対象になるのは課税事業者となった日以降の課税売上のみ(相続発生日以前の課税売上は申告不要)となりますのでご注意ください。

相続が発生した年の「翌年」の納税義務の判定

判定に用いる課税売上高の範囲

相続が発生した年の翌年における相続人の消費税の納税義務は、基準期間における被相続人の課税売上高と相続人自身の課税売上高を合算して判定します。

遺産分割状況による影響

相続が発生した年の翌年においては、遺産分割が行われたタイミングにより納税義務の判定方法が異なります。

相続が発生した年の年末までに遺産分割が行われた場合

基準期間における被相続人の課税売上高事業を承継した相続人自身の課税売上高に合算して納税義務を判定します。

相続が発生した年の年末までに遺産分割が行われていなかった場合

基準期間における被相続人の課税売上高を法定相続分で按分した金額相続人自身の課税売上高に合算して納税義務を判定します。

これは、消費税の納税義務を事前に(前年末までに)予知できないと、納税のための準備や簡易課税選択等の届出書の提出に影響が及ぶためです。

具体例(X4年の納税義務)

前記の前提条件をもとに、相続が発生した年(X3年)の年末までに遺産分割が終了した場合・しなかった場合の翌年(X4年)の納税義務の判定を行うと、以下のとおりとなります。

X3年の年末までに遺産分割済みの場合

基準期間であるX2年のテナントビルの課税売上高1,680万円は遺産分割により相続が確定した妻(2/3)と長男(1/3)へ相続割合に応じて按分し、さらに長男は自らのX2年の課税売上高も合算して判定します。

~相続が発生した年の翌年(X4年)の納税義務判定~

  • 妻 1,680万円 × 2/3 = 1,120万円 > 1,000万円 ∴課税事業者
  • 長男 1,680万円 × 1/3 + 750万円 = 1,310万円 > 1,000万円 ∴課税事業者

X3年の年末までに遺産が未分割の場合

基準期間であるX2年のテナントビルの課税売上高1,680万円は法定相続分に応じて按分、さらに長男は自らのX2年の課税売上高も合算して判定します。

~相続が発生した年の翌年(X4年)の納税義務判定~

  • 妻 1,680万円 × 1/2 = 840万円 ≦ 1,000万円 ∴免税事業者
  • 長男 1,680万円 × 1/4 + 750万円 = 1,170万円 > 1,000万円 ∴課税事業者
  • 長女 1,680万円 × 1/4 = 420万円 ≦ 1,000万円 ∴免税事業者

相続が発生した年の「翌々年」の納税義務の判定

判定に用いる課税売上高の範囲

相続が発生した年の翌々年における相続人の消費税の納税義務は、基準期間における被相続人の課税売上高と相続人自身の課税売上高を合算して判定します。

遺産分割状況による影響

相続が発生した年の翌々年においても、遺産分割が行われたタイミングにより納税義務の判定方法が異なります。

相続が発生した年の翌年末までに遺産分割が行われた場合

基準期間における被相続人の営んでいた事業から生じた課税売上高(相続開始以降の分も含む)を事業を承継した相続人自身の課税売上高に合算して納税義務を判定します。

相続が発生した年の翌年末までに遺産分割が行われていなかった場合

基準期間における被相続人の営んでいた事業から生じた課税売上高(相続開始以降の分も含む)を法定相続分で按分した金額相続人自身の課税売上高に合算して納税義務を判定します。

これは、消費税の納税義務を事前に(前年末までに)予知できないと、納税のための準備や簡易課税選択等の届出書の提出に影響が及ぶためです。

具体例(X5年の納税義務)

前記の前提条件をもとに、相続が発生した年の翌年(X4年)の年末までに遺産分割が終了した場合・しなかった場合の翌年(X5年)の納税義務の判定を行うと、以下のとおりとなります。

X4年の年末までに遺産分割済みの場合

基準期間であるX3年のテナントビルの課税売上高1,560万円は遺産分割により相続が確定した妻(2/3)と長男(1/3)へ相続割合に応じて按分し、さらに長男は自らのX3年の課税売上高も合算して判定します。

~相続が発生した年の翌々年(X5年)の納税義務判定~

  • 妻 1,560万円 × 2/3 = 1,040万円 > 1,000万円 ∴課税事業者
  • 長男 1,560万円 × 1/3 + 900万円 = 1,420万円 > 1,000万円 ∴課税事業者

X4年の年末までに遺産が未分割の場合

基準期間であるX3年のテナントビルの課税売上高1,560万円は法定相続分に応じて按分、さらに長男は自らのX3年の課税売上高も合算して判定します。

~相続が発生した年の翌々年(X5年)の納税義務判定~

  • 妻 1,560万円 × 1/2 = 780万円 ≦ 1,000万円 ∴免税事業者
  • 長男 1,560万円 × 1/4 + 900万円 = 1,290万円 > 1,000万円 ∴課税事業者
  • 長女 1,560万円 × 1/4 = 390万円 ≦ 1,000万円 ∴免税事業者

特定遺贈により消費税を節税できる?

上記のように基準期間における被相続人の課税売上高も含めて相続人の納税義務を判定するのは、被相続人から「相続(包括遺贈を含む)」により事業を承継した場合に限定されています。

したがって、「特定遺贈」又は「死因贈与」により事業を承継した場合には、相続人自身の基準期間における課税売上高のみによって納税義務を判定することになります。

たとえば、被相続人が生前に事業用財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言書を作成しており、相続が発生した後にその相続人が遺言書通りに事業を承継した場合には、その相続人の消費税の納税義務の判定上、被相続人の基準期間における課税売上高は考慮しなくてよいことになります。

つまり、被相続人が消費税の課税事業者だった場合、遺言書の作成が相続人の消費税の節税につながるケースもあるというわけです。


※ この記事は、投稿日現在における情報・法令等に基づいて作成しております。

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